2018-02

天上の調べは愛を紡ぐ 38

ナイトスタンドが映し出す柔らかな光と影の中で、
榛原はシャワーを浴びたばかりの和波の体を
上質のリネンの上に横たえた。

欧米人とのハーフだからだろう。
骨太の骨格に見合う筋肉を纏った彼の精悍な体を目の当たりにした時、
和波は三回瞬きをした。

やはり日本人の自分とは作りがずいぶん違う。

「あ、あの……一つだけお聞きしていいですか?」

行為が佳境に突入して我を失ってしまう前に、
一つだけ聞いてみたいことがある。

「?」
「あの時、ロビー演奏で僕に声をかけてくれたのは……
僕の音がお母様に似ていたから、ですか?」

確かにグレース・デュトワには憧れていたが、
恋人として向き合う相手に、母親と自分の演奏を重ね合わせられているとしたら、
さすがに居心地が良くない。

「まさか!」

榛原が一際大きく目を見開いた。

「母はね、楽器の前に立つと女から漢(おとこ)に変わる人だったんだ。
私たち家族が、昔からそれにどれだけ閉口してきたかわかるかい?」
「はあ……」
「だから言っただろう? 母の模倣である必要はないって」

演奏家に限らず、女性の専門家には
異常なまでの集中力を持った人間が時々存在する。

「いくら素晴らしいハーピストになっても、
和波にはあんな激しい性格になってほしくない」

榛原はいたずらっぽく笑ってみせた。

「あの日、弦を見つめる君の目があんまり真摯で綺麗だったものだから、
つい声をかけてしまったんだ」

どうやら榛原は、後でマネージャーに
『奏者に直接交渉するのはマナー違反です』商品に手を出すな!
と釘を刺されてしまったらしい。

「どうやったら君を自分の物にできるか、
あの時から私はそればかり考えてきたんだ。和波」

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