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「かずは……」

榛原が驚いたようにこちらを振り返る。
椅子からゆっくりと立ち上がる彼に和波は駆け寄った。

自分からこの胸に飛びこみ、
抱きとめてもらう時をどれほど夢見ただろう。

ただしっかりと抱き締めてくれる榛原の温もりを、
和波は目を閉じ、全身で感じていた。

「良かった。もしも君が来なかったら……
私はここで一晩中この曲を弾いていたかもしれない」

「どうして、ですか?」

「今夜の柘植君の演奏を聴かされた時には、
正直和波を持っていかれるかもしれないと思った。
もうここには来てくれないんじゃないかって思ってたんだ」

「それくらい素晴らしいコンサートだった」と苦笑する榛原を、
和波は信じられない思いで見上げる。

「アンコール。原曲は永遠の愛を誓う歌詞で
ラストが締めくくられているだろう?」

「知って、いたんですか……」

榛原は、柘植がアンコールにと選んだあの曲が、
実は北欧の作曲家が恋人に贈った愛の歌だと
いうことを知っていたのだ。

――今も、そして永遠に、あなたを愛します。

誓いの言葉は歌の中で純粋に二度繰り返される。
その誓いどおり、作曲家は生涯をかけて彼女を愛し、
妻と故郷のために曲を作り続けた。

「本当はあの場で平常心を保っているだけで精一杯だった」

息ができなくなってしまいそうなほど
体が強く抱きしめられていく。
表情は見えないが、榛原の声はどこか苦しげだった。おKはん

「彼は若い頃の私によく似ているよ。傲慢で自分本位で、
そのくせ人一倍愛されたいと願うだけの寂しがりだ」

「あなたが?」

「昔の私はね、相手への愛と自己愛の境界線もわからずに、
ただ全力で愛しては大切な人を傷つるような
愚かな男だった」

自分の心を理解してほしい。自分と同じだけ――
いや、それ以上に愛されたいと貪欲に望み、
急ぐ恋はもろいものだ。

どちらかの我慢が飽和状態になった時、
それはあっけなく崩壊していく。
たくさんの涙と深い傷を、互いの心に残して……。

「だから柘植君の気持ちは痛いほどわかっていた。
そしてそれに思いまどう和波の心も」

「榛原さん……」

「私はもう二度と大切な人を――、
和波を失いたくなかったんだ」

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FC2blog テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2012/10/15 17:23】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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