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楽屋に届けられていた榛原からの花束には
メッセージカードが添えられていた。

「搬出が終わるまで、どうして待っていてくれなかったんだろう……」

榛原の携帯電話は留守番メッセージ対応のままだし、
ゆるやかな金線で縁取られたカードには
彼の名前と外資系ホテルの部屋番号が記されているだけだ。

(前半の演奏が原因かな……)

柘植の勢いに飲まれ、演奏のコントロールを失ったことが
榛原を失望させてしまったのだろうか。

わずかな不安を逃がすように、そっと花束を抱きしめる。
控えめなピンクのトルコキキョウたちを包んだセロファンが
カサリと軽い音を立てた。

ホテルの正面玄関でタクシーを降りた和波は
心急くままフロント係にカードを見せた。

「この番号の部屋のお客様で、あの、榛原冬吾さ――」

「白澤様でいらっしゃいますか?
ご案内いたします。どうぞこちらへ」

「あ、え……はい」

案内係と一緒にエレベーターに乗りこむ。

(あと少し、あともう少しで会える)

階数を示すオレンジ色の光を目で追い立てながら
和波は逸る心で花束を抱きしめた。

絵画と舶来の調度品が設えられた豪奢なフロアには
たった一つしか扉がない。スィートルームなのか!
その重厚なドアの前に立った和波は、
室内から聞こえてくるピアノの音に息をのんだ。

――この曲……。

「待ってください」

和波はドアのベルを押そうとした案内係の手を慌てて止めた。

「このまま中に入れていただいてもいいですか?
演奏の邪魔を……したくないんです」

「かしこまりました」

榛原から来客の旨を伝えられていたのだろう。
彼はその願いにすんなりと応じ、静かにドアを開けてくれた。

長身の後ろ姿は、一人静寂の中で
リビングルームに置かれたグランドピアノを弾いていた。

奏でられるその少し陰りあるメロディーは、
先ほどアンコールで演奏したばかりのものだ。

――君を愛す……今も、そして永遠に。

「榛原さん!」

甘い旋律はそこで途切れた。

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【2012/10/13 00:31】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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