2018-02

天上の調べは愛を紡ぐ 34

「あの頃、好きだと思えば思うほど、
自分にはない才能を持ったお前がうらやましくて、
妬ましくすら思えた。
そして恋人にそんな感情を持つ後ろめたさが、
心にまた新しい苦しみを生んでいくんだ……」

それは幼い頃から天才と呼ばれ続けた柘植が、
他人に対して初めて抱いた愛情とコンプレックスだったのだろう。

彼のそんな苦しみを、あの日の自分は知りもしなかった。

「この歪んだ愛がいつか和波を壊してしまうかもしれない、
そんな自分に耐えられなくなった俺はあの時、
目の前にあったドイツ留学の話にすべてを捨てて飛びついた」

「宣貴……」

「吹っ切るためにドイツで狂ったように弾いて、
ようやく日本に戻ってきたが、
結局俺は何も手に入れることはできなかったな」

柘植は寂しげに微笑んでみせた。

「もしかすると俺は……もう一度和波を愛することで
自分の才能と可能性に挑戦していたのかもしれない」

時間、嗜好、自由、愛――。

彼はバイオリンのために
どれだけ多くの物を犠牲にして生きてきたのだろう。

一人の人間としてではなく、
バイオリニストとして生き抜くことを選んだ柘植が
背負い続けてきた孤独の深さに、和波は改めて思いをはせた。

人生を『気持ち』という単純な選択肢だけで
選ぶことができたならどんなに楽だろう。ええ、本当に

しかし、人がその場で選べる生き方は一つだけ。
選んだ道をどう生きるかでまた違う分岐点が見えてくる。

共に音楽の世界で生きる者同士、いつかきっと柘植にも再会する。
その時には胸を張って、彼と対等に演奏できるハープ奏者でいたい。

「宣貴は……誰よりも素晴らしいバイオリニストだ。
僕はそう思ってる」

柘植はわずかに救われた目を向けた。

「和波にそう言ってもらえるなら嬉しい」

自分あてに届けられたたくさんの花束から一輪の花を手折ると、
柘植はそれを和波のジャケットの胸ポケットにそっと挿した。

「幸せになってほしい。俺の最後のわがままだ」

きびすを返し、楽屋を立ち去る柘植の後ろ姿が涙でにじむ。

「ありがとう……宣貴。さよなら……」

こぼれ落ちた涙が一雫、
薄紫の花びらの上で鮮やかに散っていった。

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