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楽器の搬出を終えた和波が楽屋に戻ると、
先ほどまで押し寄せたファンと業界関係者の対応に
追われていたはずの柘植が、一人で待っていた。

「和波……」

「宣貴、僕はドイツには行けないよ。
今の僕にはとても大切な人がいる。
僕はその人と一緒に生きていきたいんだ。
だからどこにも行かないよ」

諦めをはらんだ柘植の黒い瞳には、
迷いなくそう告げる和波自身が映っていた。

「さよなら、宣貴。僕は二人で輝いたあの日々を忘れない。
お互いに一流の奏者になることを目指して
夢中で生きた時があったからこそ、今の僕らがある。
そうだろう?」

「そうだな」

五年の歳月の中でそれぞれが築き上げた生活、仕事、責任――。

分かたれた二つの生き方が、
学生だったあの頃のように寄り添うことがもうないことなど、
本当は二人とも最初からわかっていたのだ。

「今夜のお前の演奏は、素晴らしかった。
五年前よりもずっと……」

思い出とは折り重なる記憶の中に眠る宝石のようなものだ。
懐かしく眺めたら、また心の奥に大切にしまっておけばいい。
色あせることのないその美しい輝きは、
きっともう一度歩き出す勇気をくれる。

「宣貴には感謝してる」

「俺は……初めて和波の音を聴いた時からずっとお前に憧れてた」

「僕の音?」

「ああ。他のどんな奴にも出すことのできない
甘く優しい音色と繊細な音楽性。
だからこそ俺はそんなお前に恋をして……嫉妬したんだ」

視線を落とし、柘植は自分を嘲るようにひっそりと笑った。
おKはん劇場 続く……
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FC2blog テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2012/10/06 00:32】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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