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柘植が繰り出す音の波に押し流され、
全てを諦めそうになった時、和波は低音弦の根元で
花が一輪、開いていくような気配を感じた。

(バラが……)

響板に金線で描かれた蔓バラが、ステージの照明を浴びて
控えめな光を放っている。
その小さな光は、和波が弦を爪弾く度に
音を伴いながらキラリと瞬いた。

ハープの持ち主であるグレース・デュトワも
この優しい花の光を目にしながら
数々の名演奏を生み出してきたのだろうか。

――もうあの頃の君じゃない。君の音楽はきっとみんなに届く。

静かな眼差しを感じ取った和波は、客席へと視線を上げた。

(榛原さん……?)

――君の音が聴きたいんだ。和波。

榛原の静謐な瞳はまるでそう語りかけているようだった。
もしかすると彼は柘植の挑戦を受けるためにではなく、
この言葉を伝えたかったからこそ
あの席に座ることを選んだのではないだろうか。

このハープをよみがえらせ、素晴らしい演奏会にしてみせると
榛原に約束した。
残りわずかな時間でもいい。
自分が愛する音楽をここにいる人々に届けたい。

(再現部からなら立て直せる)

バイオリンの旋律が荒波のようにうねり立つこの先には
ハープの和音がリードする穏やかな再現部が待っている。

和波は金色のペダルを決然と踏みこんだ。

――この演奏でデュトワを超える!よっしゃぁ、イケ!

右手の高音弦から甘い和音が紡ぎ出された瞬間、
柘植の作り上げた緊迫した空気が、
和波の音色に溶け去った。

優しいハープの響きに心なぐさめられるように
ホール内が安息感に包まれていく。

目を大きく見開いた柘植は、
息を深く吸い込むと、
和波の音楽性にただ瞑目して従った。

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【2012/10/01 00:35】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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