2018-02

天上の調べは愛を紡ぐ 29

弓で練り巻くようにして叩きつけられるフレーズに翻ろうされて、
焦燥を次第に抑えられなくなっていく。

(ダメだ、間に合わない!)

ペダルの踏み込みが難しい部分が、僅かにずれた。
濁ったハープの和声と、噛みつくようなバイオリンのメロディーとが
激しくぶつかり合い、不協和音の火花を散らす。

(この曲を、こんな……っ)

ペダル操作をしくじった和波は、
悔しさに奥歯を噛みしめた。

自分の音楽性を出せない緊張と絶望感とで、
指先が急激に冷えていく。
強ばった足が思うようにペダルに乗らない。
噎せ返るようなバイオリンの音色に、呼吸までが苦しくなっていく。

――そうだ、これが宣貴のバイオリンだ!

聴く者全ての心を
いとも簡単に己の音の世界へと引きずり込んでしまう、
その強大な表現力と破壊力。
どんな相手をも屈服させてしまう天才バイオリニスト。

それが柘植宣貴だ。俺の歌を聴け!

勝ち誇ったようなメロディーが滔々と流れていく。
体はがんじがらめになり、腕が前に伸びない。

(どうしたらいい? どうしたら!!)

ステージの上に逃げ場はない。
奏者にとって、音はその場限りの厳格な生き物だ。
会場の空気と緊張感、心と体のコンディション、
そして自分の才能――。
全てをコントロールできなかった時は、敗北を意味する。
指先から生まれ出た音を取り戻し、
修復する方法はどこにもないのだ。

(やめて、宣貴!)

――ムダな事だ。俺に従えばいい。

客席をにらみ付ける柘植の横顔が、そう答えたように見えた。

冷や汗をかいた指先が弦の表面だけを滑り、
必死になればなるほど弦をつかめなくなっていく。
このままでは柘植の音の牙に食らいつかれて、
演奏が崩壊していくのを待つばかりだ。

(無理だ、これ以上……ッ!)

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