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和波の心配をよそに
柘植は前半ステージを余裕の表情で弾きとおした。

しかし、彼があの目つきをしている限り安心はできない。
後半には大曲ばかりが控えている。

――この休憩中に、どういうつもりなのか問いただしておかないと。

「榛原さんをあの席に座らせたのは宣貴だね」

「彼には世話になったんだ。特別席にご招待したっていいだろう?」

楽屋の机に足を組んで座った柘植は、バイオリンを爪弾き、
ゆるい和音を鳴らした。

今朝、榛原が演奏に集中しろと言ったのは、単なる励ましではなく
この事を意味していたに違いない。

「だからってあなたは!」

「そんなに怒るなよ。きれいな顔が台なしだ」

和波は柳眉を逆立てて柘植をにらみ付けた。

「どうせお前からもチケットを渡してあったんだろう?
あいつは自分の意志で俺が招待した席に座ってるんだ。
文句を言われる筋合いはない」

「宣貴!」

「ふんっ。前半はお遊びみたいなチャラい曲ばかりだったからな。
本気を出すのはここからだ!」

柘植が勢いよく立ち上がった。

言葉どおり、ここからの柘植は
若いエネルギー満ち溢れる入神の演奏で
聴衆の心をグイグイと惹きこんでいった。
今夜ここに集まった人々は、
彼のこの音を聴くためにチケットを買ったと言ってもいい。

(今は自分であることは忘れよう。
紡ぎ出される音楽だけに集中しよう)

どれだけ心が揺れても、
もう二度と迷いのある演奏はだけはしたくない。
このハープで自分の音を作り上げると榛原に約束した。
憧れだったグレース・デュトワを超えると心に誓ったのだ。

――自分の音楽を聴いてほしい。
コンクールのように誰かと競うものではなく、また誰かの模倣でもない。
心から生まれてくる素直な音を
このハープを通してみんなに届けたい。

なんとか無事にプログラムの終曲、
サン=サーンスの『幻想曲』を迎えようとした時、
柘植は突然ステージの際まで歩み出た。

そして、手にしていた弓の切っ先を客席に突きつけ、
挑戦的な目で会場を見下ろした。

人々の奇異の視線は、
その弓が指し示す先に座る榛原へと集まっていく。ザワ… ザワ…

(宣貴っ!)

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【2012/09/25 01:29】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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