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コンサート当日の朝を迎え、
和波はハープの搬出のために榛原宅を訪れた。

運送業者に指示を出し、楽器を輸送用の頑丈なケースに
収納して送り出す。
本番前のなれた作業とはいえ、いつもこの瞬間は緊張する。
特に今回は、手配した輸送ケースにこの舶来の立派なハープが
計算どおり収まるのか、とても不安だったのだ。

「えらく立派な代物ですね。久しぶりに見ましたよ。
こんなすごいハープ」

「よろしくお願いします。僕もすぐにホールに向かいます」

なんとか搬出トラックのテールランプを見送った時には、
安堵の息がもれた。

「今夜は楽しみにしているよ」

「ありがとうございます」

腕まくりをほどき、脱ぎ捨ててあったジャケットを羽織った和波は
榛原に慌てて頭を下げた。
今日こうして無事に本番を迎えられるのも、
全て彼の力添えがあったからだ。

「お母様の大切なハープをお借りします」

「約束、守ってくれるね? 和波」

「はい。僕の音、僕の演奏で今夜の演奏会を成功させてみせます」

和波は涼やかな瞳で榛原に誓った。

今夜のチケットはもう渡してある。
本当はお礼として一番良い席を用意したかったのだが、
榛原に「身内用の席でいい」と言われ、
結局最後列のドア付近の席を用意する羽目になった。

彼はお客としてではなく、出演者の近しい者として
このコンサートを見届けたいのだと言った。

「和波」

ふいに呼び止められ、細い体が長身の榛原に抱き包まれた。
朝のひんやりとした風が薄黄色の秋バラを揺らしている。

「今夜はどんな事があっても演奏に集中するんだ。
君の音楽はきっとみんなに届く」

「榛原さん……」

「自分の信じた道を行きなさい。
本当に得たいものは迷ったその先にこそ見えるよ、和波」

柘植との再会に揺れる心を感じ取ってもなお、
榛原はこうして背中を押してくれる。
静かで深い彼の優しさに、今の和波はただ
うなづくことしかできなかった。

「はい……」

「行っておいで」

額に一つ、触れるようなキスを落とした榛原は
そっと体をほどいた。

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【2012/09/18 01:05】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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