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「若い時はね『この人となら今、この瞬間死ねる』って思うような、
激しい恋に落ちるものだよ」

榛原は僅かに懐かしさを湛えた微笑みを浮かべると、
和波の目を真っ直ぐに見つめた。

「でも時をかけて人は変わる。本当に愛し合える相手に出会えた時には、
この人と十年、もっと先まで共に生きていたいと願う、
おだやかな愛へと変わっていく」

「共に、生きる……」

「君がこんな素晴らしい奏者になったのも、
きっと彼と過ごしたかけがえのない日々があったからだろう?」
「それは……」

「感受性が人一倍強い君のことだ。深く傷ついただろうが、
その恋から貴重なものもたくさん得たはずだ。
だから次の恋をすることを恐れてはいけないよ」

自分の心を押さえつけている理由を、
やはり榛原はずっと前から感じ取っていたのだ。

「和波は今も柘植君のことを愛してる?」

「……」

――わからない。
それが正直な答えだった。

五年前、自分を捨てたはずの恋人は、今も愛していると訴えている。
それが嘘ではないことは彼の演奏を聴けばわかる。
それがわかるのは自分しかいないと断言すらできる。

もともと不本意な別れだったのだ。
もう一度やり直せたらという気持ちは、
自分で気づいていないだけで、
心のどこかでずっと燻っていたのかもしれない。

「意地の悪い質問だったかな?」

思考をまとめきれず、沈黙したままの和波に榛原は苦笑してみせた。

「じゃあ聞き方を変えよう。君は今の柘植君が好きかい?」

「今の、宣貴?」

「今の彼の全てを受けとめて愛することができなければ、
君達の関係はすぐに崩壊してしまうよ」

静かに発せられた榛原の言葉は、和波の心の核をまっすぐに貫いた。

「過去をなぞってだけいるのは自己愛の一種だ」

「それは……」

「人はね、生ある限り前を見て歩き続けなければならないものだ。
過去をなぞって愛しているだけでは前へは進めない」

榛原の透徹した瞳には、揺れまどう自分の姿が映っている。

「和波も柘植君も学生の頃とは違って、
今は自分の生き方をしっかりと持った大人だ。もしかすると
二人の心の中には、本当はもう答えが出ているんじゃないのかな」

――答えなんてあるのだろうか? 
あるのだとしたら、誰か教えてほしい。
もしも今、この迷いの森の中で、小さな明かりを灯す一軒の家を見つけたら、
救いを求めて戸惑うことなく扉をたたくだろう。
どの道を選べば正しいのか教えてほしいと希うだろう。

「じっくり考えなさい」

和波の肩を軽く叩いた榛原が、すっくと立ち上がった。
心の中にある答えは、やはり自分自身で見つけ出すしかないのだ。

「送っていこう」おおきに

笑顔で差し伸べられた手はいつものように大きく、
そして温かかった。

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【2012/09/11 22:06】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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