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柘植が言い放ったとおり、
幼い頃から練習に明け暮れてきた和波にとって、
愛する人と共に過ぎた学生時代は、夢のような日々だった。
生き急ぐように愛し合い、二人で音楽を作り上げていくことさえできれば、
他には何もいらなかった。

「でも宣貴は、卒業を間近に控えた冬、
僕の前から突然姿を消しました」

柘植は誰にも相談することなくドイツへの留学を決め、
卒業を待たずに渡独したのだ。
住所も電話番号も、連絡先全てを絶ったまま――。

「日本とドイツ、たとえどんなに遠く離れていても
心は通じ合えたはずなのに、
なぜ宣貴が僕に一言も告げずに行ってしまったのか、
結局わからず終いでした」

後には置き去りにされたという、虚無感と深い絶望だけが残った。
そしてこれが人を愛することへの恐怖心に変わり、
今も和波の心に暗い影を落としている。 

「宣貴にとってはバイオリンが全てだったんです……。
留学は体のいい理由、きっかけでしかなかったんでしょうね」

自分の野望をかなえるためには手段を選ばない彼なら、
十分に考えられる行動だった。

そんな柘植に一言「同じ夢」と言われただけで、
すべてを拭いさったはずの心に、
あの日と同じ濃度のわだかまりが、
じわじわと滲入してくるのはなぜだろう。

「君たちのように明確な夢を持った者同士は、
なりたい自分というものを強く持っているから、衝突も多くて
つらい恋だっただろうね」

「え……?」

「愛してるから許してきたんだろう? 彼のわがままを全部」

和波は驚きで声を詰まらせた。
夢を鋭角に追い求めることは、ある意味戦うことにも似ている。
それを美しいと簡単に口にできるのは、戦いの現場から離脱した者か、
その苦しさを知らない人間だけだ。
おKはん
同じ世界を追い求めた柘植とは共感できるものが多かったが、
そのぶん諍いが多かったことも事実だ。
気性が激しく、勝気な性格の柘植との恋愛は、
和波が譲ることでそのバランスが保たれていた部分も大きい。

「柘植君は欲しい物を手に入れずにはいられないタイプだからね。
演奏家として同じものを夢見たら、二人の立ち位置は恋人から
ライバルに逆転してしまう」

「あ……」

「よほど信頼し合っていなければ愛が成立しない、
若い人にはかなり難しい恋愛パターンだ」

榛原は見てきたわけでもないのに、柘植との関係を見事に言い当てた。
これが企業のトップに立ち、大勢の人間を束ねる人物の
洞察力というものなのだろうか。
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FC2blog テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2012/09/09 00:57】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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