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「落ち着いたかい?」

「はい……。こんなことにあなたを巻き込んでしまって、
すみませんでした……」

力なくソファに座った和波は、
すっかり冷えてしまった紅茶のカップを置いた。
ティーカップの琥珀色の水面に、ハープが静かに影を落とす。
やはり自分にはあの楽器を演奏する資格はない。
柘植と再び演奏を共にするなど、元から無理な話だったのだ。

「やはり無理です。こんな気持ちでは本番に向かうなんて。
心がめちゃくちゃで、何をどう表現していいのか……」

「逃げ場がない時こそ、
戦わなければならない相手は自分自身だよ」

隣に座った榛原はそっと和波の手を取り、
おだやかな声で尋ねた。

「話してくれるかな? 柘植君と何があったのか」

もう榛原にこの傷あとを隠しておくことはできない。
隠したところで、賢明な榛原にはもう全てを気づかれているはずだ。
重くうなづいた和波は、記憶を手繰りよせるように
とつとつと語り始めた。

「宣貴は学生時代……僕が愛した人、です」

おKはん
榛原は黙ったままもう一度しっかりと手を握り直してくれた。
この大きな手が自分に過去を乗り越える力をくれる、そんな気がした。

「彼とは学内のコンサートで共演したのがきっかけで、
お互いに惹かれあって……
すぐに愛し合うようになっていきました……」

柘植と出会ったのは大学に入学してすぐのことだ。
長身で精悍な顔立ちと、野心的な目を持つ柘植は、
学内でも異彩を放つ存在だった。

誰とも慣れ合わず、
どんなに高名な教授にも決してなびくことのない彼は、
この時すでに天才演奏家としてのポジションを確立しつつあった。

「自分にはない音楽性や行動力を持った宣貴が、
いつも眩しかった。今思えば、学生だった僕は、
そんな彼の才能に恋をしていたのかもしれません……」

実際、柘植の演奏には、
バイオリンの音一つで人の心を惹きつけてやまない、
そんな強いパワーがある。

彼はその群を抜いた才能で優秀な上級生達を差し置き、
学内での首席の座は当然のこと、
国内の主要な音楽コンクールでも入賞を総なめにしていった。

「でも、それは全部、彼の血のにじむような努力の結果なんです。
いつも一緒にいた僕にはわかる!」

「君は彼を、心から愛していたんだね」

「あ……。ごめん、なさい」

和波は切実に訴えようとした自分に戸惑った。
まだこんな気持ちが心の中に残っているなどとは思ってもいなかったのだ。

「生きること全てが音楽と愛に直結するような、そんな激しい恋でした……」

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【2012/09/07 15:09】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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