オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
視界がぼやけて弦の距離がつかめない。
唇は小刻みに震え、呼吸が次第に乱れていく。

――あの日、なぜ宣貴は。あの時、どうして僕は!

忘れようとしていた記憶のページが開いていく。
共に同じものを目指し、夢を見て奏で
生き急ぐように愛し合った日々――。

「……っ」

「和波……」

濁った和音を弾いたまま手を止め、
涙を隠すように楽器にすがりついた和波を見た柘植は、
やるせない瞳で立ち上がった。

「このコンサートが終わったら俺はまたドイツに帰る。
一緒に来てくれないか? 和波」俺に味噌汁を作ってくれ

「宣貴!? 何を急に……」

まつ毛に膨らみ溜まった涙が、驚きで二つ、三つとこぼれ落ちていく。

「もう一度同じ夢を、今度は二人で叶えたい。
俺は和波とやり直したいんだ」

「同じ、夢……」

「ドイツにいる間、俺は一日だって和波のことを
忘れた日はなかった」

「嘘だ。だってあの時、宣貴は……」

「もうどこにも行かない。
これからはずっと一緒だから何も心配しなくていい。
愛してるんだ、和波」

自分から捨て去っておきながら今さら何を言うのだろう。
そんな都合のいい話、信じられるはずがない。

「違う……。宣貴が愛してるのは自分自身だ。僕じゃない!」

柘植の手が和波の薄い肩を乱暴に掴んだ。

「あいつの……せいなのか?
パトロンなんかに義理立てして何になるっ」

怒りにまかせた柘植は、肩をつかんだ手にどんどん力を込めてくる。
こういうところも全然変わっていない。

「痛い、宣貴……手を離して」

柘植は忌々しげにハープを振りあおぐと一方的に畳みかけた。

「こんな金も立場もある人間が、
男のお前を本気で相手にするとでも思ってるのか?
金持ちにとって音楽家なんて日常を忘れるためだけの、
いい遊び相手だ」

「やめてくれ。榛原さんはそんな人じゃない。誠実な人だ。
宣貴とは違う!」

論点が榛原への侮辱に移り、和波は夢中で歯向かったが、
このことが柘植の闘争心にますます火をつけていく。

「飽きたらどうせすぐに捨てられるんだぞ。それがわからないほど
お前は子供じゃないだろう、和波っ」

「あなたはいつも勝手だ! あの時だって僕に黙ったまま
一人勝手にドイツに渡った。置き去りにされた僕の気持ちも考えず、
今度はいきなり乗り込んできてっ」

手を振り解こうとするばかりの和波に業をにやした柘植は、
細い体を抱き寄せ、否定の言葉を紡ぐその唇を
キスで無理やりふさいだ。

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【2012/09/04 00:22】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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