2018-02

天上の調べは愛を紡ぐ 14

その日、ざわめき立つ心をおさえきれなくなった和波は、
思いあまって榛原に「会いたい」と連絡をいれていた。
多忙な彼に自分から連絡をするのは初めてのことだ。
おKはん
夕食を取る時間ならかまわないと返事をもらってホッとしたものの、
いざ待ち合わせのレストランで彼と顔を合わせると、
思うように言葉が出てこない。

榛原の存在が自分の心の中で思っていたよりも
ずっと大きなものになっていたことに、和波は改めてとまどっていた。


「反りが合わない相手とコンサートか……」

「すみません。こんな事で榛原さんにお時間をいただくなんて……」

なぜ柘植との仕事を避けたいのか、
本当の理由を榛原に話すわけにはいかない。

「かまわないよ。事務所の絡みで引き受ける羽目になったのかい?
宮村君はああ見えても結構やり手マネージャーだからね」

西洋人とのハーフであることがそう感じさせるのか、
榛原はオーバーアクション気味に笑ってみせた。


落ち着いた灯りの下、銀製のカトラリーは両端に行儀良くそろったまま、
料理だけが一皿、二皿と並んでいく。

「もしも、榛原さんなら……」

――この状態をどう切り抜けるのか?

そうたずねかけて和波は言葉を止めた。
これ以上彼に甘えることはできない。
今夜、自分のためにこうして時間をさいてくれた、
それだけで十分じゃないか。

テーブルに灯されたキャンドルの光が、
伏せたまつ毛の先端でオレンジ色に儚く揺れる。

「そうだな……。もしも私なら」

「え?」

「何か一つ、企画に自分の提案を盛りこむ。小さなものでもいい。
意欲をかき立てるような良いアイディアを、無理やりにでも突っこむんだ」

小さな沈黙が過ぎた後、
榛原はなにかを察したように聡明な笑みを浮かべた。

「意欲を、かき立てる?」

「ああ。どのみち成功させなければならないプロジェクトなんだろう?
だったら少しでも自分の意志が反映されていた方が良い結果が出せる。
違うかい?」

理知的な深い瞳は揺らぐことなくこちらを向いている。

「たとえ気乗りしない仕事でも『自分のプロジェクトだ』という意識を
しっかりと持って積極的に臨めば、周りで働く人間の士気が向上する。
君の場合、事務所やスタッフ、協力企業がそれに当たるかな」

「そうか……」流石だなおKはん

「自分のプロジェクトがみんなの物になれば、結果は自然についてくる。
どう、やる気が出てきたかい?」

緑の草原をひるがえした一陣の風が、
あたり一面を銀色の世界に塗り変えていくように、
和波の目の前に新しい世界が拓けていく。

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