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土曜日の午後、いつものようにアトリウム型のラウンジには
秋の光が柔らかに降り注いでいる。

だが、どこからか注がれる強い視線に、
今日の和波は違和感をおぼえていた。

「おはよう、和波」

「宮村さん……。おはようございます」

最初が難航したとはいえ、すでにレギュラーが決まった現場に
クラシック担当のマネージャーがわざわざ顔を出すなど
めったにないことだ。

「仕事の話が来てるんだけど、このステージが終わったら
少し時間もらえるかな?」

事務所にとっていい話なのか、
宮村は嬉しそうな色をかくせない様子でメガネのブリッジを押し上げた。

「わかりました」

(今日は変な感じだな……)

落ち着かない心をおさえながら、いつもより注意深く調弦して演奏準備につく。

左手がハープの低音弦に触れようとしたその時、
前方から注がれる視線の主に気づいた和波の指先は、にわかに静止した。

(あれは!)

自信たっぷりにこちらを見つめる勝ち気な黒い瞳。
一番遠くの席に座っていても、その長身の男が作り出す居丈高な空気は、
ペダルを踏む足もとまで流れこんでくる。

(どうして、彼がここに!?)

動揺のあまり、何でもない所でペダルを踏みそこねた和波は、
あからさまに渋面を浮かべた。

30分のステージをこんなに長いと思ったことはない。
やっとの思いでステージを終え、さっさとその場を後にしようとしする和波に
男は臆面もなく声をかけた。

「久しぶりだな、和波」

そこには海外で活躍する若手バイオリニスト、
柘植宣貴(つげのぶたか)の姿があった。

「そうですね。柘植、さん……」

「ずいぶん他人行儀だな。昔の恋人に対して」
(っ!)

柘植の言葉に、和波の表情が凍りつく。

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【2012/08/17 21:42】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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