2018-02

天上の調べは愛を紡ぐ 10


「好きだよ、和波。愛してる」
「榛原さ、んっ……」

突然の口づけに和波は驚きで息をつめた。
しかし、ふさがれた唇はいとも簡単に割り開かれ、
口内を舌で弄られる柔らかな感覚に、心は次第に耽溺していく。

おずおずと差し出した舌は、彼の肉厚な舌にすぐに絡め取られ、
更に深い口づけへと変わっていった。

どちらからともなく夢中で舌を探り合う。
交換された唾液を夢中で嚥下するが、
それだけではとても満足できそうにない。
榛原の優しい匂いとバラの香りに包まれて気が遠くなりそうだ。

もっと深く満たされたい。全身で榛原の愛を感じたい。
この感情に溺れてしまえるのなら、
このまま彼のものになってしまってもかまわない――。

(好き……榛原さん……)

唇がそう震えそうになった途端、和波の体は石のように硬直した。

「ぁ……」

心の中に鋼鉄製の分厚い壁が何重にも立ち上がっていく。
浮ついた心を戒めるかのように、
警告音にも似た耳鳴りが頭の中で鳴り響いている。


またあの思いを繰り返すつもりなのだろうか。
憎しみと悲しみの境界線を行き来しながら、
今度は何百の夜を泣き過ごせばいいのだろう。


和波は榛原の体を小さく押し返した。

「だめです。許して、ください……っ!」

やっとの思いで紡いだ言葉が榛原の愛を拒絶するものであることに、
和波はもう一度深く絶望していく。

「すまない、つい。私が悪かった」

離れていく榛原の両腕を懸命に掴んだ和波の手は汗ばみ、
小刻みに震えていた。

「あ……違うんです。あなたの、せいじゃない……」
「和波……」

――人を愛するのが怖い。榛原の愛を失うことが怖い!

二つの心がせめぎ合う。
もしもこの愛を失ってしまったら、恐らく自分は同じ場所にうずくまったまま、
もう二度と人を愛せないだろう。

「僕は……、僕はっ!」

あふれ返りそうな感情を言葉に変換しようとするがうまくいかない。
何を、どう言葉にすれば、この二律背反する心を彼に伝えられるのだろう。

必死で榛原を見上げた瞳は、瞬きすることもなく大きく見開かれていた。


「和波、お願いだ。またここに来てくれるかい? 庭をぜひ一緒に眺めてほしい」
「……はい、……」

自分がまだ求められていることに、安堵でその場にくずおれそうになる。

「今度はバラの名前もちゃんと調べておくよ」

頬にかかる和波の髪をしなやかな手でといた榛原は、もう一度優しく微笑んだ。

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