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「庭を案内しよう」

榛原に「おいで」と手を差し伸べられ、とまどった和波だったが
ここは彼の庭なのだ。周りの目は気にしなくてもいい。
おずおずと手を繋いだ和波は、
榛原に導かれるまま開放されたガラスの扉から外に出た。

楽器によってタコができたこの指を
彼は「プロの指だ」と誉めてくれたが、
こうして手を繋いでみてその硬さに違和感を感じてはいないだろうか?

「どこに行くつもりだい? 私と一緒に庭を見るんだろう?」

思わず引っ込めかけた手はしっかりと握り返され、
和波の胸に甘い幸福感が広がっていく。 

「……はい」

アーチに巻きつけられた蔓バラは、
こぼれ落ちそうなほどたくさんの花を咲かせていた。

「小さな花なのに、こんなにいい香りがするなんて。香りも種類ごとに
少しずつ違う。薔薇にもそれぞれ個性があるんですね」
「そこに咲くピンクのは香水の原料にもなる種類らしいが、
実のところ私もよく知らないんだ」

こんな立派な庭を所有しながら、榛原はそれにはあまり興味がないのだろうか。

(もったいないな……)

前髪を風に梳かれながら、和波はハープの置かれた部屋の窓を振り返った。

「いつも薔薇が綺麗に咲いてるなって思って見てたんです」
「家に持って帰るかい? 好きなだけ切ってあげるよ」
「いいえ、やめておきます」

立ち止まって首を横に振る和波に、榛原は不思議そうな目をした。

「四季咲きの薔薇ってこんなに綺麗なのに、
切るとなぜか造花みたいに見えてしまって……可哀想です」

四季咲きの大きなバラは、庭で鮮やかに咲き誇っていたはずのものを
花瓶に活けた途端、まるでプラスチック製品に変化したかのように
生気を失ってしまう。シオシオ……

水を十分に含んだ瑞々しいバラは、触れた時にひんやりと冷たく感じるものだ。
そしてこれこそが花が確かに生命を営んでいる証でもある。


和波は大輪の花をそっと片手で包むように撫でてから榛原を振り仰いだ。

「だからきっとこの薔薇も、ずっとこの庭で咲いていたいんだと思います」
「花自身の意思か……。考えたこともなかった」

榛原は今歩いてきた小道を振り返り、風に揺れる無数の花を遠い目で眺めた。

「そういえば随分長い間、ゆっくりと庭に出たことがなかったな。
手入れも業者に任せたきりだし」

(榛原さんは……)

彼は庭に興味がないのではない。
多忙な日々を送るうちに、庭はいつの間にか目に映るだけの
単なる背景になっていたのだろう。
それどころか深夜の帰宅が続けば、
それを目にすることすら叶わないのかもしれない。

花は四季を通してこんなに美しく咲き誇っているのに。
彼が愛してくれる時を待っているのに――。

「あの、薔薇を……」
「?」
「薔薇を切っていただく代わりに、時々このお庭をご一緒させてください。
そうしたら鮮やかなままの花をいつでも楽しむことができますから」

それなら少なくとも自分が昼間訪れた時には、
榛原はこの庭を眺めることができる。
彼とまたこうして手を繋ぎ、静かに季節の移ろいを見送ることができるのだ。


「ありがとう、和波。君のその指から生まれる音楽は、
きっと君自身の心を映し出したものなんだろうな」
「僕、自身……?」
「優しさと慈しみに満ち溢れた……、天上の調べだ」

細い体を強く抱き締められ
遠く澄んだ空とバラ園の景色が大きく揺らいだ。

「ぁっ……」

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【2012/08/13 17:35】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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