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加納書店用2

<超ざっくりのあらすじ>

紆余曲折の末に思いが通じ合った、強気バイオリニストの加納顕彰(かのうけんしょう)と
俊才コンサートマスターの結城明星(ゆうきめいせい)。
休暇を取った加納は、結城のもとに帰ってくるのですが
またしてもお約束の一騒動を起こしてしまいます……。
二人の馴れ初めがちょっと気になる方は、ぜひ既刊の『プライド狂奏曲』でお会いしましょう!


        ・**。・


――俺の恋人は、時々ドイツから日本に帰ってきては、何かと面倒を引き起こす、
いわばバイオリンを弾く悪魔だ。

「っ……、ん…ぅ……っ」

意識の遠くで、苦しげな吐息と、ギリ…と砂を噛んだような音が何度も繰り返される。
耳元で鳴る不快な音で、結城明星は目を覚ました。

外はもう明るいが、今日はオフなので特に焦ることもない。
久々に日本に帰ってきた恋人と抱き合いながら、昼前までゆっくり眠ろうと思っていたのだから、
起きるにはまだ少し早いくらいだ。

(何の、音だ……?)

まだ覚醒しきっていない目を、隣で眠る加納顕彰に向ける。
ぼんやりとした焦点が恋人に合わさった瞬間、結城の眠気は遥か彼方に飛び去った。

(うわっ!)

目の前二十センチで眠る加納は、眉間に深い皺を刻みながら、
阿修羅像そっくりの形相で奥歯をギリギリと鳴らしている。

(何の音かと思ったら、顕彰の歯ぎしりだったのか……)

加納は左手で自分の右手首をがっしりと掴み、額に汗を滲ませて苦悶の表情を浮かべている。
親の仇に出くわした夢でも見ているのだろうか。

(寝てる時くらい落ち着けよ。まったく…。何の夢を見たらこんな顔で眠れるんだ?)

その疑問は、加納が苦しそうな呼吸の合間に漏らした寝言で、あっさりと解けた。

「ぁ……弓っ……」

(こいつ、もしかしてバイオリンを弾いてるのか?)

「ぅ……っ……」

バイオリンを奏でているにしては、かなり苦しそうだが、それもそのはずだ。
弓を操るはずの右手の自由を、自分の左手でがっちり封じているのだから。

しかも握った右手首がバイオリンの指板になっているらしい。
ポジションを取ろうとして、左指がピクリと危うい動きを見せる。
まるで自分で自分を持ち上げて、宙を歩こうとするマンガのワンシーンのようだ。

吹き出しそうになるのを堪えながら、結城はその光景をしげしげと観察した。

――俺の恋人は、見かけによらず勤勉な悪魔だ。眠っている合間もこうして律儀に練習する。

夢の中で必死に闘う加納を、最初は面白半分に眺めていた結城だったが、
だんだん可哀想に思えてきた。
結城も仕事絡みの夢はよく見る。

(だいたいは合奏の楽譜が自分だけ違ってて焦るとか、
本番中なのに、なぜか自分は客席に座ってるとか、そういう最悪な夢ばっかりだけどな)

目が覚めたら汗びっしょりで、曜日と時間を確かめないではいられなくなる。

(そろそろ助けてやるか)

わがままで傲慢な加納だが、音楽、殊更バイオリンを演奏することに関しては、誰よりも真摯で情熱的な男だ。

指先が白くなるほど強く握り締めている加納の左手に、自分の手をそっと重ねてやる。
温もりが伝わって安心したのか、加納はホッと一つ安堵の息を漏らすと、深く刻んでいた眉間の皺を緩めた。

夢の中でバイオリンを奏でていた左手は、結城の手を求めて小さく伸びていく。
唇を微かに綻ばせて、加納の寝顔が徐々に幸せそうなものへと変わっていく。

人差し指の背で頬をそっと撫でてやると、真っ直ぐな睫毛がくすぐったそうに揺れた。
目元がうっすらと赤いのは、昨夜少し泣かせすぎたせいだろう。

――バイオリンを弾く悪魔の寝顔が案外幼くて可愛いのは、俺だけの秘密だ。

(休暇を取ってても、やっぱり心のどこかで次の公演の事が気になるんだろうな)

普段は横柄でプライドの高い加納だからこそ、
潜在意識下では他人の何百倍もの孤独と焦りを抱えているはずだ。
せめて自分のもとに帰ってきた時くらい、思う存分甘えて、羽を休めていけばいい。
たとえそれが夢の中だとしても。

張りのある加納の黒髪を指で梳き上げ、その手で背中をそっと抱き寄せてやる。
自分とそう背丈が変わらないはずの体は、まるでパズルのピースがはまるように、腕の中に正確に収まった。

せっかくなのだから、このままもう少し眠ろう。
昼食に連れて行ってやろうと思っていた店は、かなり遅くまでランチ営業をやっているはずだ。

それに目が覚めた時、自分に抱かれて眠っていたことに気づいた加納が、
どんな表情で慌てるのかちょっと見てみたい気もする。
起こしてしまわないよう、優しく加納の体を抱き直し、結城がもう一度眠りにつこうとした時だった――。

「ん……ゆうき、鳴ってるぞ。お前の携帯……」

ベッドサイドに置かれた電話が、高い電子音を鳴らしながら勢いよく振動し始めた。

「バカ、顕彰のだ。俺のじゃない」

「俺は…出ないからな。眠い……」

「でも、出た方がいいと思うぞ。芦川さんからだ」

着信画面には、加納が所属する音楽事務所の担当マネージャーの名前が表示されている。

「あしかわ、さん? 何の用…………っ、あ――――ッ!」

「何だよ、いきなり大声で」

電話を掴んだ加納は、慌てふためいて叫んだ。

「あ、ああ、おはようございま……って、今何時だ? お、起きた! 大丈夫。
もう起きてるから、そのまま下で待って…すぐ、いや、五分で下に行く……痛っ!」

いきなり全力でベッドから立ち上がろうとした加納は、
節々の痛みに耐えきれず、バランスを崩してそのまま転がり落ちた。

「おい、顕彰」

『加納さん、どうしました? 大丈夫ですか? 部屋まで迎えに行きましょうか? 加納さん!』

マネージャーの慌てた声が電話から聞こえてくる。

(まあ、ゆうべあれだけヤったんだから仕方ないか……)

「平気だっ。平気だからそこで待ってろ」

恨めしそうな目で睨み上げられても困る。昨夜のは全部合意の上での出来事だ。
むしろ自分の方からそれを望んできたくせに、人のせいにするな。

「マズイ。約束を忘れてた。もうマンションの下まで迎えに来てる」

「休暇で帰ってきたんだろ? 何でお前がここにいる事を芦川さんが知ってるんだ?」

「仕方ないだろ。昨日いろいろあったからバレたんだ。おい結城、それより俺の服、どこにやった?」

電話を放り出し、面倒くさそうに答えた加納は、裸になってから服をあたふたと探し始めた。

「で、事務所にどんな仕事を突っ込まれたんだ?」

「プライベートとしてでいいから、次の演奏会のスポンサーと顔合わせしておきたいらしい。
ランチ会とかいう馬鹿げた集まりで、俺はまた興行の駒だ」

「なら、これ着てけ」

結城は立ち上がると、クローゼットから黒ジャケットと淡い水色のピンストライプシャツ、
ベージュのコットンパンツを選んで加納の前に並べた。
加納の方がやや細身だが、背格好はほぼ同じだから合うはずだ。

「何でわざわざ結城の服を借りなきゃならないんだよ。自分で持ってきたのがある」

「セレブな奴らの昼食会だろ? ホテルか同等クラスの店で軽いコース料理になるだろうから、
着ていく物も少し品良くまとめておいた方が無難だ。楽器は要るのか?」

「今日は弾かないから置いてく」

「持っていけ。ケースを手にしてるだけで、相手は勝手にありがたがって喜ぶ」

音楽以外にはまったく関心のない加納のことだ。
どうせつまらなさそうな顔のまま、黙って食事に付き合うだけになるだろう。
せめて服装と持ち物だけでも好印象なら場も華やぐ。

百年に一人の天才バイオリニストとして称賛される加納だが、
長身で目鼻立ちのきりっと整った容姿は、本当は本人が思っている以上に男前だ。

「向こうの好感度が上がれば、仕事は自然とスマートに進む」

「わかった、楽器は持ってくから。本当にいちいち小うるさい男だな」

ぶつぶつ文句を言いながらも用意されたシャツを羽織り、ボタンをとめる加納に、結城は優しく目を細めた。

加納が恋人の服を着て会食の場にいるなんて、先方はまさか想像もできないだろう。
二人だけの秘密をはらんだ外出に、加納本人もまんざらではないらしい。
横柄な表情を作って、口元が綻びそうになるのを必死に堪えている。

――本人は認めたがらないが、俺の悪魔は、見かけよりも根はずっと素直で可愛い奴だ。

「じゃあ行ってくる」

なんとか身支度を終え、玄関先に立った加納は、着信ランプがせわしなく点滅する電話を、
煩わしそうにポケットに捻り込んだ。

「思った通りぴったりだな」

見慣れた自分の服のはずなのに、加納が纏うとシャープさが一層増す。
予想以上の男前に仕上がった。上出来だ。

「仕上げにこれを巻いてけ」

バイオリンケースを手にした加納の襟元に一枚、薄手のコットンストールを巻いてやる。
瞳に反射した淡いサーモンピンクが、加納の勝ち気な目元をワントーン和らげてくれる。
これならスポンサーも気に入ってくれるに違いない。

「相変わらず気障ったらしい奴だな。お前は」

「いいから早く行って、仕事をもぎ取って来い。下で芦川さんが待ってるぞ」

「あ、結城っ」

「?」

加納の黒い瞳が伏し目がちに揺れた。

「……すぐ行って、すぐに…帰るから…」

今日の予定を変更して悪かったと言いたいのだろう。
プライドの高い人間というのは、こういう時に不自由なものだ。

「その服、汚したら承知しないからな」

ジャケットの襟元を正して、ポンと肩を叩いてやる。気にするなと答える代わりだ。

加納をエレベーターに押し込め、階を示す数字が下がっていくのを無事に見届けた結城は、
ここでようやく息をついた。

「しかしあんなに決まるとは思わなかった」

普段からもう少し服装にも気をつかえば、もっと印象も変わる。
明日は一緒に街へ出て、加納に何着か服を選んでやろう。

「何でもいい」と文句を言いながらも、加納はきっと機嫌良く買い物に付き合うはずだ。
こういう状態を、世の人はデートと呼ぶのだから。

唇に笑みを浮かべて部屋へと戻る結城の前髪を、春の風が柔らかに揺らす。

――こんな風に、時々ふらっと帰ってきては小さな嵐を巻き起こしていくが、
加納顕彰は生意気で可愛い、俺だけの悪魔だ。


        ・**。・

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J庭でお配りしたペーパーをこちらでもUPしました。
お楽しみいただけたら嬉しいです。

この帰国で加納の引き起こしたあれこれを、夏か秋の新刊にする予定です!
「昨日いろいろあったから」と本人は言ってますが、加納は一体何をやらかしたのでしょうね。
楽しみながら書けたらと思います。

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【2015/03/10 16:41】 |  読み切り短編
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