オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……

天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!


       

高校を卒業してから、俺は無趣味になった。
仕事時間が不規則すぎて、そして仕事に気を遣いすぎて何にも手につかなかったからだ。
だが、そんな味気ない日々にも別れを告げる時が来た!

「お疲れーっす」

後輩車掌 野ノ宮の薄っぺらい挨拶に、俺はわざと丁寧に答えてやる。

「ああ、お疲れ様」

「シミっさん、これで上がりでしょ?」

こいつにそう呼ばれると、どうも「しみったれの志水」って言われてる気がして、
なんか苛つくんだよな。

(しかし何でこんなにカオスなんだ? こいつのロッカー)

ロッカーの中は本人の頭ん中を丸写しにしてるってのは、本当だな。
ここから低級悪魔でも這い出てきて、
作り笑いしながらくだらない取引を持ちかけてきそうな…、
そのくらいグッチャグチャなロッカーだ。

「なんか俺、腹減っちゃって。ハハハ。ラーメンとか一緒にどうです?」

ほら来た。
いまだに準急の停車駅を、あんちょこ見なきゃ言えない奴になんか、絶対奢んないからな。

「俺、行く所あるからこれで」

「わ、マジ冷たい。どこ行くんすか? ねえ、シミっさん」

だからシミっさんって呼ぶな! 鬱陶しい。

「大人のお稽古事だ」

「そう言われると余計気になるじゃないですか。マジでどこっすか?
あ、もしかしてSMクラぶッ?! 痛……」

カオスなロッカーの扉を、お喋りな奴の面めがけて思い切り閉めてやった。
ざまあみろ。

「準急の停車駅を、順番通りそらで言えるようになったら教えてやる」

絶望的な顔で「え~っ!」と声をひっくり返すアホの後輩に、俺は深々とため息をついた。
もうそろろちゃんと覚えてくれよ、準急の停車駅順。
お願いだから。




今やどこでも当たり前の駅直結型商業施設は、ものすごく便利だ。
商品だけじゃなく、サービスの種類も充実してる。
エスカレーターを上がった先には、大きなガラス窓で仕切られた明るいスタジオが、
両腕を広げて俺を待っていた。

「俺の人生はここから変わる……」

真新しい会員カードを手にした俺は『XYZ クッキングスタジオ』と掲げられた入り口を、
道場破りのような目で睨み据えた。

文化的生活の基本とも言える衣食住の中でも、食は取り分け大事な項目だ。
しかし、クリスマスの一件で、俺の弱点は料理だということが浮き彫りにされた。

(やっぱシミュレーションしておいて正解だったな)

河合と平和な同棲生活を送るには、
料理は絶対に押さえておかなきゃならないポイントだ。

男二人の同棲は男女カップルとは違い、
結婚生活というよりも共同生活的な意味合いが占める部分が大きい。

つまり気配りと技術、この両方が必要不可欠なのだ。

「あとは技術だけだ。問題ない」

自分で自分を勇気づけた俺は、
そのナチュラルでお洒落、明るく開放的でスタイリッシュな料理教室に足を踏み入れた。


最近の料理教室って、フィットネスクラブみたいにスタジオが外から丸見えの作りだ。
開放的で眺めはいいんだけど、先生も受講生も全員女だから男は俺一人だけ。
間違えて女性専用車両に乗ってしまったみたいで、ちょっと落ち着かない。

「今日は圧力鍋を使って、簡単にできるプロ級の煮物を作ります」

鉄道マンをやってる限り、定期的なコースレッスンは受けられない。
1レッスン・チケット制で講座に放り込んでくれる料理教室を探すのに、ずいぶん骨が折れた。

今日の受講生は20代から30前半の女性が多いと思ったら、そういや土曜日だったな。
フラワーモチーフのネイルとか、レースのバレッタやビジューの襟元とか、
道理で教室がいつもより華やかなわけだ。

「皆さんの前に、人数分のカボチャが用意されていると思いますが、これを――」

河合、待ってろよ。
完璧な同棲生活が送れる料理男子に、俺はなってみせる。
そしたら、きちんとあの日の返事をするからな。

「……――さん。聞いてますか? 志水さん!」

「はいぃ! 感明良好です!」

無線と同じ応え方で飛び上がった俺は、周りの女性受講生に笑われてしまった。

ここからは気を引き締めていくぞ。
既に4分の1に切り分けられたカボチャに、恐る恐る包丁を入れる。

(……って、硬い、これ)

もう一度刃を入れ直そうと包丁を引くが、今度は前にも後ろにも動かなくなった。

(おい、何でこんな硬いんだよ)

周りの受講生はすでに全員、カボチャを一口大に切り終えている。
え? 女なのに何でみんなそんなに力あるんだ?

「では次に――」

ヤバい。
こんな序盤で取り残されたら、料理男子への道のりが一気に遠のいてしまう。

(この状況、キャンプの時に似てね?)

中学生の時、薪割り体験したあの時にそっくりだ。
斧の刃先で薪を軽く当ててから割るって、ガイドさんに教えてもらったっけ。

それなら――。

(与作は木を、切る!)

包丁の柄を両手でギュッと握り直して、脇を締める。
半分刺さったカボチャごと包丁を降り上げると、
俺はそれをまな板めがけて全力で打ちつけた。

(ヘイヘイ、ホーッ!!)

ステンレスの調理台がそっくり返るかと思うほど、強い打撃音が轟く。

真っ二つに割れたカボチャの片方は洗い桶の中に突っ込み、
スプ○ッシュマウンテンのように盛大な水柱を上げた。
一方、Pタイルの床に落ちた方は、ビールマンスピンで華麗にフィニッシュを決めている。

「すみませんっ」

水飛沫で濡れた服をおしぼりで拭く女性に、俺は平謝りで頭を下げた。

ああ、何で料理ってこんなに難しいんだ?
まだ味付けにも到達してないんだぞ。
それに比べたら、準急の停車駅順覚えるのなんか、造作もないことだ。

(もしかして俺、料理の才能がないとか……)

どうしよう。野ノ宮のアホさに呆れてる場合じゃない。

悩みが新たな局面を迎えた時だった――。

「志水ッ!!」

引き戸を全開にし、まるで殴り込みのように気焔をゆらめかせた男が、
いきなり教室に乗り込んできた。

「だ――――っ! かっ、河合、何しに来たんだよ!? お前」

「大丈夫だ。禊ぎは済ませた」

「はぁ!?」

ヤクザか政治家じゃあるまいし、何言ってんの? お前。
怖いから眉間に深い皺を刻んで喋るなよ。

「河合様、領収証をお忘れです」

「あ、すいません」

慌てて追いかけてきた受付の姉ちゃんが、河合に領収証を手渡している。

「禊ぎってお前、入会手続きのことかよッ!」

「他になにがあるんだ?」

どうやら野ノ宮が、この秘密のレッスンのことを河合にバラしたらしい。

(クソッ! 野ノ宮め。覚えてろ)

今度こっそりあいつのあんちょこを隠しといてやる。
そもそもそんな物に頼ってるから、いつまで経っても覚えられないんだよ。
準急の停車駅順を!

 後編へ→

  目次にもどる
web拍手 by FC2

FC2blog テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

【2015/02/09 00:08】 |  シリーズ短編
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック