オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

<はじめに>
このお話はリンク先でもお世話になっている「色亭八宝」のはっちん様と
互いの作品でSSを書くという企画から生まれました。
つまりグループ内二次創作です

2015年1月11日配布のペーパーに載せていただいたお話ですが、
会場では早めになくなってしまったので、webでも皆さんにお読みいただけたらと思います。

私が書かせていただいたのは、はっちん様の長編作品
『斜陽1~4』(完結)の、その後SSです。

愛と欲と孤独の狭間で、人は何を思い、そして求めるのか――
斜陽は、そうした日本人らしい暗さとひたむきさを持った作品です。
愛を込めて書いたのですが、もしも原作とイメージ違いすぎていましたら
私の力不足です。お許しください。

完結済み作品のSSなので、ネタバレを含みます。
ご了承いただける方だけ下記からどうぞ。

注意書きを長々とすみません。
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。




『雪のち晴れ 所により愛が降るでしょう

運転士の入間と車掌の三沢は、複雑な過去を経て、
現在は湖畔の小さな鉄道会社に勤めながら一緒に暮らしています。
『斜陽』の主人公、ベテラン乗務員二人のその後話です――。

 ◇ ◇ ◇

「こんな所で兵糧攻めかよ……」

ぐう…と鳴る腹を宥めるように、入間は大きな体を不似合いなくらい丸めた。
曇った窓ガラスを、濃紺の制服の袖で苛立ち気味に拭うが、
袖も窓もベタベタになっただけで視界の悪さは全く変わらない。

雪が降りしきる真夜中の峠で、列車は事切れたように停止していた。
エンジン故障でヒーターが切れた上、昼と晩、二食抜いたことも加わって恐ろしく寒い。

「ヤバい音がしてやがる」

雪が降り始めるとあたりは一面静けさに包まれる、なんていうのは都会の幻想だ。
山間部に降る雪には、氷の粒子が通り抜けていくのにも似た不気味な音が存在する。
その粒子が通り過ぎる度に、埋もれかけた笹っ原がサーッと鳴り、
自分の重み耐えきれなくなった雪の固まりがズシリ…と落ちる。
こうした音が野山のあちこちで絶え間なく続くのだ。

こんな事になるなら、くだらない意地を張らずに、
三沢の用意してくれた制服の外套と晩飯の弁当を、素直に持って出勤するべきだった。

『持っていかないのか? それに今日は降るぞ』
『いらねぇ。外で食う』

そう言った時に見せた三沢の刺すように冷たい視線が、ワイパーに伸びる氷柱と重なる。

「ババアの飯屋は閉まってるし、雪は降ってくるし、
おまけにこんな所でハコ(列車)は壊れちまうし」

恋人との言い争いは何が発端だったのか、今となってはもう思い出せない。
寒さに負けて犬の散歩ルートを黙ってショートカットしたのが気に入らなかったか、
それとも空の弁当箱を翌日に出したのが原因だったのか……。
とにかく三沢の理路整然とした物言いが、カチンときたことだけはよく覚えている。

そしてつい先刻も、氷の女王のように冷たい口調で入間に命令を下したのだ。
「指示に従え」と。


――最終仕業を終えた入間は、エンジンが不調気味の車両を
そのまま車庫へと返す途中だった。
前照灯の照らし出す狭い範囲を、雪の残像が斜めに走る。
ワイパーが窓ガラスに弧を描く度、牡丹雪はぼそりぼそりと鈍い音を立てながら絡まり合い、
面相くさそうに脇へと寄っていく。

「いよいよ本格的に降ってきやがった。頼むからあとちょっとだけ頑張ってくれよ」

滅多に雪が降ることのないこの地方に、珍しく積雪への注意が呼びかけられていた夜だった。
ちょっと積もればここの車両はお手上げだ。

元から積雪への備えがなされた雪国の路線や、立派な装備の長距離特急車両とは
仕様が全く違う。しかもどの車両もかなり型が古いときている。

ただでさえモーターの回転数が安定しない上に、雪で車輪が滑りやすい。
こういう時には注意深くノッチを切って、空転していないか足下に耳を澄ませる。
目、耳、手応え、時には臭い。どんなに機器類が進化しても、最後は己の五感が頼りだ。

「おい、冗談だろ!!」

前方の光景に目を剥いた入間は、慌てて非常ブレーキを引いた。

トンネルの出口半分を雪の小山が塞いでいる。
急激にかかった制動力に、体がつんのめりになる。
両の足で踏ん張り、入間は祈るような心でブレーキハンドルを握りしめた。

年代物の車両は断末魔のような金属音と火花をあげ、
ガクンと大きく揺れてから、止まった――。

「クソッ!」

吹き溜まりの雪に、山の斜面から崩れ落ちてきた雪も加わり、
高さ1.5メートルはある白い小山がトンネルの出口を塞いでいる。
除雪用スコップもなしに、一人でどうにかできるような代物じゃない。

「半分まで来てこれかよ!」

制帽を床に叩きつけると、入間は誰に向けるでもなく怒鳴り声をあげた。
壁に掛けられた列車無線をすぐに毟り取る。

「おい、トンネルの出口を雪の吹き溜まりが塞いでる。後退の許可を頼む!」
『こちらT鉄指令。列車番号をどうぞ』

無線受話器を通して返ってきた声は、運転指令を務める年輩の助役のものではなく、
氷よりも冷たいあの男の声だった。

「三沢! お前何だってそんなとこに――」
『列車番号をどうぞ』

業務中とはいえ、仮にも恋人に対して、
なぜ三沢はこんな非常時でも冷静でいられるのだろう。

「終車時間も過ぎて、今ハコ動かしてんのは俺だけだってこと、
お前だって知ってんだろうが! おい!」
『規則ですから』

――こいつ、昼間のこと絶対まだ怒ってやがる!

「助役を出せよ。お前じゃ話にならねぇ」
『食事休憩に出ています。落ち着いて現在位置と状況を報告してください』

これ以上ごねても埒があかない。彼の言うことの方が正論なのだ。

「っ……。猪野ヶ洞峠のトンネルっ、上り方面を雪の吹き溜まりが塞いでて通過できそうにない」
『では、車両の現在位置はトンネル内ということでしょうか?』

「そうだ。だから――」
『では車両を後退させて、直ちにトンネル内から出てください』
「だからそのために連絡入れてんだろうが!」

列車をトンネル内で停車させてはならない。
過去にトンネルで起きた、悲惨な列車火災事故に基づいて取り決められた規則だ。
そして、列車を勝手に後退運転させることは許されない。
バックするには運転指令からの許可が必要なのだ。

何もかもすべては安全のため、法と規則の定める通りに、だ。

「うるせぇんだよ! さっきからキンコンカンコンと!」

やり場のない苛立ちをぶつけるように、入間はけたたましく鳴り続ける非常警報のスイッチを、
拳骨で叩くようにして切った。

『今あなたが乗っているのはディーゼル車です。
CO(一酸化炭素)中毒になりたくなければ、直ちに指示に従ってください』
「了解……っ!」

指示通り、車体をトンネルから完全に出したところで、
ディーゼルエンジンはドルン…と一つ、最期の息を吐いて停止した。

「とうとうこんな所で逝っちまったのかよ」

急ブレーキと後退運転が、壊れ掛けたエンジンにとどめを刺したのだろう。
列車を放置したまま、この場を後にすることはできない。
雪の降りしきる山の中、入間が自力で帰りつく道は、完全に断たれた。


――あれから3時間。救援列車はまだ来ない。

『入間君、ホントごめんねぇ。すぐにでも救援列車を行かせたいんだけど、この雪でポイントが何カ所か凍っちゃっててさ。今、全力で準備してるから』

そんな助役の無線に脱力してから、優に30分は経ったはずだ。

「揃いも揃って役立たずばっかりかよ」

いくらのどかな山間部の三セクとはいえ、朝から注意報も出ていたというのに、
この段取りの悪さは何だ。

「客が乗ってねぇからって、適当にやってやがるんじゃねぇだろうな。ったく……」

人間は、暑い時よりも寒い時の方が時間の流れを遅く感じると聞いたことがあるが、
案外本当かもしれない。
現に腕時計の秒針が壊れてるのかと思うほど、のろまに見える。
今にも止まりそうだ。

「このままだと……冗談じゃなく凍死するかもしれねぇな」

こんなことなら短い正月休み、面倒くさがらずに娘夫婦の顔を見に行っておけばよかった。
旦那の、春日(*娘婿・元部下)の方はどうでもいい。
死ぬ前にせめてもう一度、さつきとかわいい孫の顔だけは見たかった。

普段勝ち気なはずの入間が、珍しくこんな考えを巡らせてしまうのには理由があった。
先刻の助役からの返答が、入間の絶望感に拍車をかけたのだ。

『それより助役さん。あの、三沢は…?』
『ああ、帰ったよ。さっき。ハコを動かせない自分が残ってても仕方ないからって言って』

確かに正論だ。しかし――。

「本当に冷てえ野郎だな……」

ここまで合理主義に徹底することもないだろう。
言う通り規定を守ったのだ。せめてもう少し親身になってくれたっていいじゃないか。

こぼした溜息が、白い湯気となって運転室の天井に昇り、散っていく。
いよいよ外気と変わらない気温になってきたようだ。

「……」

一緒に暮らし始めた頃の、少し困ったようにはにかんで微笑んでみせた、
そんな三沢はもう遠い。
強くなった。そう思う。

心の奥底に刻みつけられた古い傷たちを、
三沢は時をかけて自分の力で少しずつ浄化し、答えを導き出し――、
そして歩き始めたのだ。

もとより彼は男だ。誰の手を借りなくても一人で生きていける。
自分の道を、自分の意志と力で。

もうあの頃のように、自分は三沢に必要とされていないのではないだろうか。
もしかすると、あの時のように、また自分から離れていってしまうのでは――……。

突然、乗務員室の扉が、足下でガンガンと乱暴に鳴った。

(何だっ  イノシシ…か?)

いや、違う。獣特有の気配や息づかいがない。

落とし窓の真下は死角になっていて確認できないが、
明かりが見えないから救援の連中でもない。
こんな零下の山中で、真夜中に明かりもつけず、
気配もなく近付いてくるなんて、絶対ロクなもんじゃない。

年寄りのOB乗務員が酒の席でにやりとしながら語った、
山を彷徨くという物の怪の話が、入間の脳裏を掠めた。

――よせやい。

飲まず食わずで乾いていたはずの喉が、ゴクリと鳴る。
扉は再びダンダンと激しい音を立てて揺れた。

今すぐここを開けろ…とでも言いたそうに。

咄嗟に武器になりそうな物を探す。
目の前のブレーキハンドルに、入間が汗ばむ手を伸ばした時だった。

後編(R18)

  目次にもどる
web拍手 by FC2

FC2blog テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

【2015/01/16 19:06】 |  読み切り短編
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。