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「おい! いるんだろ? 死んでなければ返事くらいしろ!」

足下から人間の叫び声が聞こえた。

「いるなら開けてくれ、入間! 入間ッ!」

慌てて扉を内に引く。
そこには保線作業用の防寒着を着込み、必死の形相で乗務員室を見上げる
長身の男の姿があった。

「三沢……」

フードを縁取るファーに無数の氷粒をつけて、上がりきった息を銀色のもやに変えながら、
三沢は肩をせわしなく上下させている。
足下には小さなLEDライトが一つ、弱々しい光を灯したまま半分雪に埋もれていた。

「お前、どうやって……」

問いただすまでもない。道らしい道も見えない真っ暗な雪の峠を、
三沢は自分の足で走ってきたのだ。
どんなに急いでも人の足では2時間はかかるはずだ。

「よかった……。入間からの無線を受けて、救援列車の準備状況見て、
任せられないって直感したら、どうしてもじっとしていられなくて――」
「わかった。もうわかったから」

雪明かりの中、入間は床に膝をつくと、
こちら向かって両腕を必死に伸ばす三沢の体を、全力で抱きしめた。
自分と同じ、我が家の匂いがする。
背はあるのに、自分よりもうんと華奢な男の肩が、ただ愛おしかった。

「俺より冷えきってるじゃねぇか」
「雪で進めなくなったから、林道の途中で車を捨てて、後は走ってきたんだ」
「うっかり滑って、沢にでも転げ落ちたらどうするつもりだったんだ」

脅しじゃない。
いくら人里から離れていないとはいえ、こんな雪の夜に誰も出歩いたりなどしない。
小さなライトだけを頼りに、不案内な山道を単独で越えようなんて自殺行為だ。
ここまで無事にたどり着いたのが奇跡とすら思えてくる。

「それこそ救援に来てくれる奴なんていねぇんだぞ」

肉付きの薄い両肩を掴み、本当に怪我がないのか確かめる。
入間の厳しい声音に、三沢は切れ長の目を意外そうにさまよわせた。

「あ…すまない。そこまでは気が回らなかった」

冷えて固まりかけた三沢の体を乗務員室に引き上げる。

「ったく、そういうのをミイラ取りがミイラになるって言うんだ。
たかが雪で足止め食らったってだけで、血相変えて大げさな野郎だな」

ついさっきまで凍死したらとか、山の化け物なんて馬鹿げた事を考えていたのは棚に上げ、
入間はここでようやく笑みを見せた。
フードについたままの氷の粒を手で払ってやる。

「昼も夜も食ってないし、コートも持たずに出ていったから、きっとつらいんじゃないかって。
だからこれ」

手渡された袋から出てきたのは、入間が置いてきた外套と夕食の弁当だった。

「……」
普段は冷静沈着な男を、ここまで無鉄砲な行動に走らせたのは自分だ。
出掛けにあんな意地を張らなければ、三沢にこんな危険な真似をさせなくてすんだはずだ。
無線で冷徹に応じたのも、取り乱した自分のことを案じ、
最善の指示を出そうとしたからだ。

三沢をもう一度抱き寄せ、入間はその薄い唇を貪るように奪った。
悪かったと言葉にする代わりに。

「ん…ふ……んぅっ」

酸素だけでなく理性までも奪い取る乱暴なキスに、三沢が小さく抵抗する。
普段は激し過ぎるくらいの情交を好むくせに、状況が違うからか今夜はやけにお堅い。

――そういうことなら。

「お前とはいろんな所でヤったけど、車内は初めてだよな」

キッチリ首まで閉められた防寒着のファスナーを、ジ…と音を立てながら下ろしてやる。

「バッ! 何考えてんだ、アンタは」
「いいじゃねぇか。どうせあいつら待ってても暫くは来ねぇ。下手すりゃ朝になっちまう」

無言で睨み上げる三沢の瞳が、雪明かりを映して揺れた。

「就業時間以外は着てちゃいけない決まりだろ? 車掌サン」

よほど慌てて来たのだろう。防寒着の下は制服のままだ。

「こ、これは…っ! やめっ……」

制服にありがちなストライプのネクタイを、ゆっくり思わせぶりに解いてやる。
喉元をまさぐられる感触と衣擦れの音が、三沢の抵抗力を徐々に奪っていく。

シャツのボタンを一つ、二つと外していくに従って、三沢のささやかな抵抗が止んだ。
淫らな期待を溶かし込んだ吐息が唇から漏れる度に、白いもやが昇る。

「アッ!」

急に手首をグイッと引かれ、三沢が小さな驚きの声を上げた。
逸る心で乗務員室の扉を開け、客車のロングシートに細い体を押し倒す。
逞しい体にのしかかられて、三沢は息苦しそうにのけ反った。
その白い首筋に、獣のように食らいついてやる。

「あぁっ」

湧き上がる征服感を抑えられそうにない。
こんなに獰猛な感覚は久しぶりだ。

「このままぐちゃぐちゃになるまで犯してやるよ。どんだけ泣いても許してやらねぇからな。
そうして欲しいんだろ? ん? 車掌サン」
「違っ! うぁア……」

シャツの中を冷えた手でまさぐられて、三沢の体がビクリと跳ねた。
そのまま容赦なく胸の尖りを捩じり上げてやる。

「ひぁっっ!」

感じないからと言って、以前は乳首をいじらせたがらなかったが、
一緒に暮らし始めてからは、甘えた声を押し殺しながら涙を滲ませて悦ぶまでに変わった。
だから泊まり勤務の前は触らせたがらない。

『形が変わると、風呂場で…恥ずかしいだろ……』

――どう考えても煽ってるとしか思えねぇ。

もどかしくなった入間はシャツを力任せに開いた。
ちぎれたボタンが一つ、座席の下へと飛んだ。
「やめ、ろ。入間、ヤリ過ぎ、だっ……んぅ!」

構うものかと、平らな胸に小さく隆起した乳首に、思い切りしゃぶりつく。
ぴんとそそり立った肉芽はますます硬度と弾力性を増し、
甘噛みする入間の歯をじれったそうに押し返してくる。
本気を出したら噛み潰してしまいそうだ。

「ああっ! 入間っ、もう、や……」
「え? 何だって? よく聞こえねぇな」
「そこばっか、り……嫌、だ……」

髪を夢中で振り乱し、三沢は強請るように腰を捩らせた。

「ストイックな面して、欲張りな車掌だぜ」

無遠慮な手つきでスラックスの前を割る。
痛いくらいに張り詰め、勃起したものを引きずり出された瞬間、三沢が高い喘ぎ声をあげた。

「アァぁっっ 」

たまらずに彷徨わせた手が座席の背もたれを掴むが、
三沢の本当に欲しいモノはこのままでは得られない。

情欲と理性、二つの心をせめぎ合わせて苦しむ三沢に、
入間は満悦の笑みを浮かべ、唇を舐めた。

「どうする? 俺は優しいからな。お前が望むんなら叶えてやるぞ」

入間は毒をたっぷり含ませた声音で
「大好きな姿勢で、奥まで思い切り抉り込んでやる」と囁いた。

真っ白く曇った窓ガラスを、自重に耐えかねた雫が一滴、ぽたりと落ちていく。

「…だ、ぃ…………」

震える唇で三沢が掠れた声を紡ぎかけた時、直線的な光が入間の頬を白く照らした。

「ぁ…」

三沢がとっさに胸の前でシャツを掻き合わせる。

「チッ、今ごろ来やがったのか……」

種別表示を【救援】と大層に点し、武骨なエンジン音と真っ白な蒸気をあげながら、
一台の列車が近づいて来る。
その車両にはよく見知った顔があった。

「整備部長じきじきのお出ましかよ、クソッ」
「…、まずいな……」
「いいからお前は後で来い。時間稼いどいてやるから」

のどかな山間部の三セクとはいえ、故障車両の回収に流石に少しは本気だったようだ。
道具を手にした作業員が、救援車両から次々と降りてくる。
十人あまりはいるだろうか。

「応援、明日の朝になっちまうのかと思いましたよ」

タラップをのそりのそりと降り、両手を腰にやった入間は、偉そうな態度で上司を睨みつけた。

「凍ったポイントはもう大丈夫なんですか?
始発までに間に合わなきゃ、こんな田舎でもマスコミもんの大失態になると思いますがねぇ」

散々待たされたのだ。これくらいは言わせてもらう。
そもそも雪への備えがしっかりできていれば、回避できたことだ。

「遅くなってすまなかった、入間さん。あれ? 三沢君も? 応援?」
「はい……」

いつの間に身を整えたのか、防寒着のファスナーをきっちりと首まで上げた三沢が、
後ろに控えている。
帰ったはずの三沢がここにいることに、整備部長は多少驚いた様子だったが、
あまり深く考えないのが現場男というものだ。

「部長ー! 氷でガリゴリですよ」
「え? あー、こりゃー部品ごと逝っちゃってるわ」

真っ暗だった雪の山中に投光器が煌々と点り、
ディーゼルのエンジン音と男たちの掛け声と笑い声が、賑やかに響き渡る。

藪の向こうで狐が一匹、目を緑色に反射させてから大急ぎで逃げていった。


「うちの車内で弁当食うのって、観光客みたいで案外新鮮なもんだな」

三沢の得意な出汁巻き卵を頬張りながら、入間はようやく息をついた。
救援列車に牽引され、故障車両はのどかなレール音を響かせながら車庫へと向かっていく。

整備部長に「こっちに乗っていくか?」と誘われたが、それは体よく断った。
三沢と二人で貸し切り列車と洒落込むのも悪くない。

「実はさっきな……」

弁当箱の蓋を閉めた入間は、まだ明けやらぬ空に視線を移した。

「もしもこのまま凍死しちまったら、さつきが喪主やるのかとか、ついバカな事考えちまってな……」
「本当にバカだな、アンタは」
「あん? 何だと?」

バカとはなんだ、バカとは。
自分で言うのと、人から言われるのでは意味合いが全然違う。
そういう自分だって今夜は随分と無鉄砲だったじゃないか。

「このあたりは田舎だから、喪主は男がやるって風習がまだ根強く残ってる」
「ふん、だからお前がやるってか?」
「違うよ。親族の順位から考えると、入間の葬式の喪主は、さつきちゃんじゃなくて
旦那の春日だ」
「はァ !? 春日ぁ!?」

入間の声が盛大に裏返った。

あの頼りないヒヨっ子が、鉄道関係の弔問客を相手に、
冷や汗をかきながら辿々しく挨拶する姿が、ありありと目に浮かぶ。
危なっかしくて棺桶でおちおち死んでなどいられるはずがない。

「ダメだ、そんなの許せねぇ!」
「だろう? だからアンタは長生きしなきゃならないんだ」
「春日に頼るくらいなら、あと百年は生きてやる」

入間が鼻息荒く腕組みする。
切れ長の目をスッと細めた三沢は、茜色に染まりかけた空に微笑みを向け、そっと呟いた。

「俺のために、そうしてくれ」
「え? 何だって?」

噛みつく入間に、三沢は腕時計に目をやり、理知的な笑みを返す。

「ん? ……この時間だし、入間はこのまま始発乗務になるかもなって」
「冗談やめろよ、おい」
「うちの助役さんなら言いかねない」

確かにあののんきな助役なら、あり得ることだ。

「断固としてお断りだ。今日は帰って寝るぞ。
無粋な奴らのお陰でお預け食らっちまったし。なあ、痛っ…」

情交の紅い痕が残る首筋を、人差し指の背でそろりと撫で上げてやった瞬間、
三沢は向こう臑を蹴ってきた。

「無粋はアンタだ。こんな所でヤったら中途半端になるに決まってる」
「ヘヘ…、嘘つけ。車掌サンは結構乗り気だったじゃ…痛っ。
畜生、同じ場所ばっかり蹴りやがって」

赤らめた頬で睨めつける三沢の向こうを、
遮断機の警報音がトーンを下げながら、後方に流れ去っていく。
車庫は間もなくだ。

朝霧を白く揺らめかせて湖が目覚め始める。
水郷に暮らす人々の誇りともいえる湖は、満々と水を湛え、
この程度の雪などでは決して凍らない。
白み始めた空を湖面に映し、さざ波は小魚たちに朝の訪れを知らせているのだろうか。

「陽が昇るな」
「ああ」

三沢の薄い唇が、穏やかな微笑みを浮かべている。

「んだよ。一人だけ嬉しそうにニヤけやがって」
「違う。好きなんだ。朝陽が」

暁の光を映し込んだ瞳で、三沢が迷いなく入間を見つめ返す。

「生きることに理由なんか必要ない、
今日を、今この時をただ懸命に生きろって……いつも教えてくれる気がする」

昇る陽の光が、対照的な二人の頬を同じ色に染め上げていく。
銀色の小魚が跳ねる湖に影を映しながら、
二両編成のディーゼルカーは、車庫を目指して揚々と駆け抜けていった。


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――はっちん様からの指令
『夫婦漫才で落とせ』
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【2015/01/16 19:06】 |  読み切り短編
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