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それからも和波は榛原宅を訪れ、調整後には彼の望むだけハープを弾いた。

雨の日には静かな優しい曲、日差しが厳しい夏の午後には
水辺を歌った涼しげな曲、夜に訪れた時には緩やかな夜想曲を。
自分の音が彼にとって少しでも安らぎになればいい。

そんな和波に、榛原はいつも優しい距離を保ちながら接し続けていた。
好きだと告げながらも我を通すことなく、穏やかな眼差しで包んでくれる彼に、
和波は少しずつ心を解きたくなっていく。

――忘れてはいけないのに。あの涙と、あの絶望を……。



「中から部屋が続いてるなんて思いもしませんでした」

この日、初めてコンサバトリ―へと通された和波は、
三角のガラスが放射状に張り合わされた透明な屋根から、
秋の高い空を振り仰いだ。

庭の向こうにガラス張りの小さな部屋があることは知っていたが、
温室だろうと思っていたのだ。

「涼しくなったら、ぜひこの部屋に和波を招待しようと思ってた」

コンサバトリ―に木陰を落とす大きなトウカエデは、
あと少しすれば見事に紅葉するのだと榛原は教えてくれた。

ガラス窓が開放された多角形の部屋を秋の爽やかな風が通り過ぎていく。
その風に乗って迷いこんできた小さな蝶は、ティーテーブルの上を
ひらひらと舞い、反対側の窓から庭へと帰っていった。

時の流れが穏やか過ぎて
ここが室内なのか庭なのか、場所の概念がだんだん希薄になる。

「失礼します」

お茶を運んできたハウスキーパーの高橋は、ティーカップに紅茶を注ぎながら
「ハープの音が聞こえると奥様がいらした頃を思い出しますね」と微笑んだ。
緑の花が描かれたカップに紅茶の琥珀色がよく映える。

「綺麗な水色(すいしょく)ですね。どこの紅茶ですか?」
「ロンネフェルトというドイツの紅茶だよ」
(ドイツ……)

カップへと伸びかけた和波の手がぴくりと止まった。

「気に入ったなら少し分けてあげようか?」
「あっ、いえ……。きちんとした道具も持っていないので、
残念ですがご遠慮します……」

ドイツという言葉の響きに思わず渋面を浮かべそうになった和波は、
精一杯の作り笑いで榛原の厚意を断った。

ドイツは好きな国ではない。
今もその国名を聞くだけで、胸がザリザリと抉られるように痛む。
恐らく一生かかっても好きになることはないだろう。

遠い……、遠い国だ。

(コンサバトリ―:ガラスで囲まれたガーデンルーム)

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【2012/08/09 18:12】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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