オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!


    

「志水。俺は知りたい。……真実を」

冷えたご飯の白い固まりが、箸先からぽとりと落ちた。
苦悩する横顔の向こうを、美しい田園風景が流れ去っていく。

「河合、いいから早く食え。着いたらすぐわかる」

その駅弁、ラスト1個だったからお前に譲ったんだからな。
俺も食いたかったんだからな、新幹線開通50周年記念弁当!

二人の休みが珍しく揃ったから、
新幹線で遠出して鉄道のテーマパークに繰り出す事にしたんだけど、
前の日に先輩が教えてくれた噂話が、
デート気分で盛り上がっていた河合の人格を変えた。

『なあ、知ってるか? あそこの運転シミュレーター、
かなり手強い裏メニューがあるって』

「ひゅうへん、あふぁうはな?(抽選、当たるかな?)」

「エビフライ食いながら憂いに満ちた顔で話すのやめろよ、河合……」

男前な分だけ残念感がハンパない。

「すいません。コーヒー二つ」

「ありがとうございます♪」

――って、車内販売の姉ちゃん呼び止める時だけ爽やかな笑顔かよ!

国内外の最新ニュースが流れていく電光掲示板を睨みながら、
俺は湯気の立つ熱いコーヒーを啜った。

「心配すんな。俺が必ず当ててやるから」

仕方ない。今日は俺のとっときの技を河合に見せてやる。




「すごいな、志水。本当に当たった!」

どこの鉄道館でも運転シミュレーターは人気アトラクションだから、
抽選制か整理券制だ。
平日とはいえ、遠足のガキと親子連れ、妙なオーラを放つ鉄オタ組で
かなり高い抽選確率だったが、俺の特技がパワーを放った。

「任せろ。俺はこういうのには運があるんだ」

肝心な時は不運なことが多いけどさ。

「男は黙って量産機だ」

旧式の運転台の前に座った河合は、
目にも留まらぬ早さで、パネル上の選択肢を選んでいく。
河合。やっぱりお前、ニュー○イプじゃね?

「上級、見習い、中級、上級、見習い、見習い…」

先輩から聞いた噂によると、ある順序で連続コマンドを入れると、
システム開発者がテスト用に作った裏メニューが現れるらしいんだが――。

「なあ、やっぱガセなんじゃ……」

「シッ。黙って、志水」

真っ黒になった画面に、ネオンブルーのコンピュータ文字が浮かび上がった。
喉がゴクリと鳴る。
横一文字の蒼い閃光が走った後、画面に再び運転台と軌道が現れた。

「開いた……」

薄い唇が挑戦的な笑みを浮かべて歪む。

靴先でユニットを小さく蹴ると、足下のパネルがくるりと回転して警笛ペダルが出現した。

「種別 【新・新快速】!」

見習い生みたいな大声で指差喚呼を始めた河合を、俺は思わず呼び止めた。

「何だよ? 新・新快速って」

「新快速よりも早いから、つまり在来線のノンストップ車ってことだよ」

なんかスゴく嫌な予感しかしないから俺、帰ってもいいかな。河合。

「出発よし! 発車ぁっ!!」

河合は刻みノッチで注意深く列車を加速させ始めた。

シミュレーターとはいえ、初めて扱う運転台だ。
モーター音もマスコンの遊びも、ブレーキのレスポンスも、
慣れたうちの車両とは全く違う。

その緊張感を楽しむかのように、河合の目がニッと細くなる。

「第一閉塞、進行ッ!!」

ああ、恥ずかしいから、信号毎にいちいち喚呼すんのやめてくれよ。

「ゆめが丘、通過!」

架空駅のプラットホームが飛ぶように流れ去っていく。

「おい、規定通りやれよ。志水」

「はあ!?」

俺にまで車掌やれってかのか? ここで。

「何でお前の趣味に付き合わされなきゃなんねえんだよ」

「やってよ。志水ぅ」

あー、もう! こんな時だけ捨てられた子犬みたいな悲しい目すんなよ。
やればいいんだろ? やれば!

「通過! 異常なし!」

俺は画面を指さして、大声で事故のないことを確認する。
こんなことだったら抽選当てなきゃよかった。
やっぱ俺は運が悪い。

このあまりに異常な光景に、周囲の客たちはドン引きを通り越して、
次々にギャラリーへと化していく。
俺たちの背後にはちょっとした人だかりができ始めた。

「志水。ギャラリーのために鳴き(アナウンス)入れてやれ」

厳しい眼差しでノッチを切りながら、河合は更なる仕事を要求してきた。
へえへえ。どうせ旅の恥はかき捨てだ。
ここまで来たら、もう恥ずかしいもんなんてねえよ。

画面の背景に観覧車が見えた。
俺はエアマイクを取る。

「ただ今、沿線の○○パークでは(お好きな遊園地名を入れてください)
アニメイベント『妖怪ウ●ッチ 全員大集合!』を開催中です。
詳しくは駅のパンフレットをご覧ください」

夜叉のような河合の形相に引き気味だったガキ達は、
人気アニメのタイトルに反応して、嬉しそうに笑った。

「ふっ、さすがはお気遣い車掌だな。志水」

口元が笑みを浮かべて不敵に歪む。

「任せろ。お前は前だけ見て運転してたらいい」

「遠慮なくそうさせてもらう!」

突然、窓ガラスをバタバタと叩きつけてきた雪を、河合は邪魔そうに睨んだ。

「あっ…」

ギャラリーから小さな悲鳴があがった。
吹雪で真っ白の視界の中、降りかけた遮断機を押し破り、
なぜか軽トラックが踏切内に突っ込んできたのだ。

(しっかし、どんだけ細かい設定なんだよ、これ)

河合が警笛ペダルを全開で踏み込む。
耳をつんざくような激しいホーンと一緒に、河合の怒声が飛んだ。

「命の惜しい奴は前に出てくるなッッ!!!」

だからお前はニュー○イプかよ……。

「皆さま、直前横断は大変危険です。絶対にやめましょう」

後ろを振り返った俺は、再びエアマイクを取り、
至高の微笑みで事故防止のアナウンスを入れた。

ギャラリーが拍手喝采する中、河合の運転する新・新快速は定刻通り、
終端駅の停止位置目標ぴったりに停まった。


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【2014/11/09 23:51】 |  シリーズ短編
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