オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!



       


(あー、早く朝が来ねえかな)

味気ない仮眠室のパイプベッドで、俺はペラい上掛けを蹴って丸めた。

(早一担当の夜に、早く朝が来てほしいて思ったのなんか初めてだ。クソッ)

とにかく明日の始発乗務さえ終われば、帰って風呂に入れる。

なんだって今夜に限って共同風呂のボイラーが壊れるんだよ。
朝夕はすっかり涼しくなったけど、
真っ昼間、カンカン照りの乗務員室は温室状態だ。

(古い車両には乗務員室にクーラーがないなんて知ったら、お客はビックリだろうな)

――ケチ会社め!

サビと埃と汗でベタベタの体のまま、下着だけ着替えたって全然意味ねえよ。

(しかしツイてないな……)

翌日が始発乗務なのに、容赦なく11時まで仕事突っ込まれた上に、
宿泊所の風呂場は『ボイラー故障につき本日は使用できません』だと?

(隣町の銭湯まで行くくらいならな、1秒でも早く寝たいんだよ。早一は!)

でも待てよ。
結局俺、早く寝たいのか朝になってほしいのか、どっちなんだ?

「志水――っ!」

無意味なパラドックスに気を取られている隙もなく、
ドアをぶち破りそうな勢いで河合が仮眠室に飛び込んできた。

「だ――――ッ! いきなり何だよ、河合」

今夜、河合が同じ宿泊所にいることは知ってた。
だけど夜更かしさせて明日の運転に障るといけないから、わざと知らんぷりしてたのに、
人のせっかくの気遣いをお前って奴は!

「風呂行こう」

「ハァ??」

いつも通り、清々しいほどのアホだな。

「貼り紙見ただろ。ボイラー壊れてるって」

「うん。でも、給湯できないってだけで、浴槽のお湯はまだ残ってるってタムさんが言ってた」

「え?」

貼り紙の裏側まで読めるなんて、流石はベテラン運転士のタムさんだ。

「ぬるくなってるかもだけど、冬場じゃないし大丈夫だろ。行こう」

「行こうって、二人で?」

嬉しそうに俺の手を取った河合が、切れ長の目を意外そうに目を丸くした。

「今夜泊まりのメンツにも声掛けるか?」

「それだけはやめとけ。河合…」

あの面倒な奴らを誘って、行水大会のバカ騒ぎにでもなってみろ。
タムさんに「明日の仕事をどうするつもりだ」って鬼のように怒られるのが目に見えてる。
ああ、おっかない……。


手にタオルを下げ、薄暗い通路を二人きりで風呂場へと向かう。
風呂が使えないせいもあって、今夜の宿泊所はしんと静まり返っていた。

アルミサッシの窓に切り取られた月の光が、Pタイルの床に長方形の浮橋を描き出している。
その青白く反射した光の部分だけを選んで、
ひょいひょいと渡っていく俺を、河合が小さく笑った。

「なんだよ」

「志水でもたまには子供っぽいことするんだなって思って」

「いいだろ。だってさ、光の川の上を渡ってくみたいで綺麗じゃないか」

「じゃあ志水が水先案内人だな」

河合も続いて光の浮橋にひょいと片足で乗る。

「そんないいもんじゃねえよ」

俺の後を、首からタオルを下げた河合の影がついてきた。


       


「何で電気消すんだよ。真っ暗で危ないじゃんか」

脱衣所と浴室の電気が消えて、俺は河合の姿を慌てて探した。

「他の奴が来たら面倒だろ?」

「あ、そっか」

「それにこうして電気消しちゃえば、旅先の秘湯ムードだし」

確かに電気消しただけで、どこか遠くの温泉旅館に来たみたいな気がしてきたぞ。

「んー、何とか入れる温度かな」

「ますます温泉ぽいな。源泉掛け流しの湯でこういうのあるよな」

「あるある」

ちょっと温いけど、広い湯船でうーんと手足を伸ばしてみる。
そうだよ。泊まり勤務にはこれがなきゃ!

「おー、志水見てみろ。今夜は満月だ」

「ぶはっ。いきなり立つなよ。風呂ん中のっしのし歩くから波がこっち来るじゃんか」

お湯をかき分けるようにして、河合が嬉しそうに窓に向かっていく。
大きく取られた浴場の窓からは、雲一つない夜空に浮かぶ満月が見えた。

しかし、目が慣れてきたらメチャメチャ明るいじゃないか。
むしろ河合の広い背中とか引き締まった大臀筋とか
誰もが羨む立派なモノとか、
いろいろ見え過ぎて恥ずかしいくらいだ。

(…!)

マズイ。何か兆してきた。

(う…。静まれ、俺のチ……・・・)

慌てて膝を抱いて体を丸めたせいで、
残りの呟きはブクブクと蟹の泡みたいになってしまった。

「せっかく広い風呂なのに、なんで壺湯みたいに縮こまってるんだ?」

(だ――――っ! 我慢してるのに、成人男性の立派な徴を
俺の目の前に持ってくんな。バ河合!)

河合は、恥ずかしそうにうつむく俺の顎を取った。

その目がニッと細くなる。
良くない予感がする。こいつがこういう顔する時は、大抵――。

「せっかく二人きりで入れるのに、他の奴にも声掛けようだなんて、
思わず颯太の頭がオカシくなったのかって心配した」

「な、名前で呼ぶな」

  ピンチの後編へ!→

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【2014/10/06 13:45】 |  シリーズ短編
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