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『プライド狂奏曲』 試し読み






「どうなんだ? 加納」

「ぁ……」

答えは決まっているはずなのに、声にならない。
滝のような冷や汗が、雨で肌に張りついたシャツを更にじっとりと濡らしていく。

「この後に及んでまだプライドの方が大切なのか?」

「違う! 俺はっ、俺は……」

心を読まれた焦りで口ごもる加納に、結城は困った顔をしたが、
やがて何かを思いついたように口の端を上げた。

「今日の昼間、『バイオリニストとして、俺とお前のどっちが上なのか決めてやる』って言ったよな?」

――言った。確かに言った。

あんなに渇いていたはずの喉がゴクリと鳴る。

「お互いバイオリンでは長年に渡って張り合ってきた間柄だが、
このあたりで男としてどちらが上なのか決着をつける、というのはどうだ? 加納」

「結城……一体、何を……?」

「鈍い奴だな」

結城は勝ち誇った笑みを浮かべながら、指の背で加納の頬をそろりとなで上げた。

「お前を抱かせてくれたら、俺の楽器を貸してやってもいい」

「ゆ、結城っ。お前、まさか!」

コンクリートブロックで頭を殴られたのと同じくらいの衝撃が走った。
結城に同性愛の趣味があったなんて初耳だ。
アメリカでの演奏生活で、そういうコトも覚えてきたのだろうか?

つまり彼はバイオリニストとしての立場か、男としてのプライドか、
どちらか一つを選べと言っているのだ。

「傘も買えずに、ここまで歩いて来たくらいだ。所持金もほとんどないんだろう?
帰りのタクシー代なんて払えるはずがない」

「う…」

「終電は行った後だぞ」

痛いところを突かれた。

「俺の相手ついでに、今夜からこのままうちに滞在してくれて構わない。
悪い条件じゃないと思うが、どうする? 加納」

「くっ……」

どうしたらいいのだろう。
因縁のライバルに体と心を蹂躙されるその屈辱に、耐え抜くことができるだろうか。
葛藤に震える両手を握りしめながらも、加納は自分を取り巻く人々のことを思った。

今回のコンサートに携わる数多くの企業とスタッフ、それに伴って動く多額の資金。
そして東都シティ・フィルへの責任と、大勢の音楽ファンから寄せられる期待と熱意。

自分には彼らを守る義務と責任がある。
今、世の中から求められているのは、一人の人間ではなく、
バイオリニストとしての『加納顕彰』だ。
ここで逃げることは、プロ奏者として絶対に許されない。

――ならば答えは一つだ。

「それで問題が解決するなら、こんな体お前にくれてやる!」

黒い勝気な瞳に力を込め、加納は精一杯の虚勢を張ってみせた。

「バイオリンのためになら殉じることができるのか……」

結城の整った顔が僅かに歪んだ。

「なら、さっさと脱げよ」

「今、ここで、か?」

「家の中を水浸しにするつもりか?」

髪や衣服から伝い落ちた滴が、フローリングに小さな水たまりをいくつも作っている。

結城は意地の悪い笑みを浮かべながら命令を下した。
楽しいお遊びを目の前にしていても、口調はいつもと変わらず涼しいままだ。

今の自分には選択肢がない。
昼間見たあのオーケストラの連中と同じように、
彼の指示を守り、命令に従うより他に道は残されていないのだ。

その屈辱感で全身が震えた。

「わかった…」


加納書店用2 続きはぜひ紙の本で!

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【2014/08/13 01:51】 | ■紙の本 試し読み
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