オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2


主の喪に服すかのように、誰にも奏でられることなく
沈黙を守ってきたこのハープからは、どこか寂しげで哀しい響きがする。

(たった一人で……榛原さんは毎日どんな気持ちで暮らしているんだろう?)

和波は広い部屋に視線を走らせてみた。


黒いカバーを被せられたままのグランドピアノは、
深海に眠る貝のように固く蓋を閉ざしている。

旅行先で撮ったものと思われる色褪せた写真は、
幼い姉弟と両親の過ぎ去った幸せな時間だけを写し出していた。


初めて出会ったあの日に見た榛原の懐かしそうな笑顔が
胸を締めつける。せめてこのハープを甦らせることで
彼が少しでも幸せを感じてくれるのなら、
こんなに嬉しいことはない。

「どうかな。まだ使えそうかい?」

飲みかけの紅茶を置くと、榛原は調整に没頭する和波の手元を
興味深げに覗きこんできた。

「はい。元の作りがしっかりしているので、ディスクもアクションも問題ありません。
まだ多少の調整は必要ですが、古くなった弦の一部を交換して、
弾き込んでやったら絶対に息を吹き返します」
「それは嬉しいな」
「また演奏できるようになったら、天国のお母様もきっと喜んでくださるはずです」


榛原の笑顔が嬉しくて、中音弦を軽く弾いてみる。
単純な分散和音だったが、楽器本来が持つ、甘くて優しい響きが立ちのぼった。

「ほら。少し幸せそうな音になってきたでしょう?」
「本当だ」

和波の涼やかな微笑みに目を細めた榛原だったが、
弦に置いたままの指先に気づくと、急に声のトーンを下げた。

「君の、指……」
「ぁっ」

思わず手を引いた和波は、両手を自分の胸元で握った。


 <←4>
    <6→>

目次に戻る 
 
web拍手 by FC2

FC2blog テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2012/08/05 14:12】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。