オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!


あくまで架空の鉄道会社のお話です。お好きな駅名などを当てはめて、夏をお楽しみください。


         



(あー、頼むから乗るならさっさと乗ってくれ。ド初っぱなからいきなり遅延気味じゃんか)

立ち番の駅助役に『早く戸閉め合図のスイッチ押せ!』と念を送るが、
ダメだ、こりゃ。完全に舞い上がってる。

(ただでさえ臨時列車突っ込まれてグダグダなのに勘弁してくれよ!)

今夜は沿線で祭があるせいで、ホームも車内もあふれ返りそうな混雑ぶりだ。
どっちかっていうと、沿線の客より遠方から繰り出してきたお客の方が多いから、
乗り降りも必然的に澱みがちになる。

こんな仕事だからワガママ言うつもりはないけどさ、
できれば祭の花火奉納があるこの時間帯にだけは乗務したくなかった。
しかも河合の運転で!

(俺たちこういう行事のある日は、いーっつも仕事なんだよな)

あー、みんないいよな。
祭で花火でデートでラブラブで!
俺ら仕事だぜ。
しかも先頭車と最後尾だから、顔すら合わせられないんだからな。

ほらみろ、グズグズしてるから浴衣姿の女たちが、もう1組突進してきたじゃないか。

「ムリ、足痛くて走れない」

「つかコレ急行? ○○停まんの?」
(お好きな駅名を入れてください)

(今日は全車停まるって表示してあるだろうが。しかし何で浴衣にミュールなんだ?
あ、コラ。ホームと列車を跨いで立つな! 浴衣で勇ましく股広げるなよ。
そんなの見たくな――)

お、ようやく表示灯がつきやがった。

(許せ、河合。初っぱなから30秒遅延だ)

申し訳ない気持ちを込めて、合図の電鈴を遠慮がちに2つ鳴らす。

――気にすんな。

そんな軽やかな返鈴がカンカンと鳴った。

俺が安全を最優先にするとわかってるから
多少遅れを出しても、河合は絶対に焦らない。

30秒なんて日常生活では誤差みたいなもんだけど、これを2駅繰り返したら1分の遅れになる。

ヨシ! ここからはピシッと巻き気味でいくぞ!
気を引き締めて発車アナウンスを入れる。

『本日も○○電車をご利用いただき、誠にありがとうございます――』


地下線を抜けた列車は快調にスピードを上げていく。
予定より少し遅れて普通列車を追い抜いたが、まあなんとか許容範囲内だ。

「この調子だと次で祭客を降ろす時がカギだな…」

川の向こう側に見え始めた祭の花火を睨みながら、自分に言い聞かせるように呟いてみる。
これ以上河合に負担は掛けられない。

みんな心が逸るんだろうな。
まだ小さくしか見えない打ち上げ花火に、誰もの目が釘付けだ。

序盤の仕掛けが花開き始めた時、突然運転席からのインターホンが鳴った。

(どうしたんだ? 河合……)

今まで何度も河合と一緒に乗組やってるけど、
急に連絡なんてあいつらしくない。
車両に何か不具合でもあったんだろうか。

(まずいな…)

今夜は臨時列車でダイヤも車両もギチギチだ。
受話器を取る左手が緊張で強ばった。

「はい。車掌です…」

「花火、綺麗だなあ。志水」

「ハァ!?」

「そっちからも見えるだろ? 花火」

「だ――――――ッ!!  くだんねえ事でインターホン使うな! バ河合」

こいつは本当に期待どおりのアホだ。
おかげで呆れ声がでんぐり返ったじゃねえか。
緊張した俺の胸のドキドキを返せ、この大バカ野郎!

つか、お客に私用通信がバレたらどうすんだよ!

「大丈夫だって。みんな花火見てるし、俺は遮幕下ろしてるし、
志水だけ澄ました顔で話してたら問題ない」

「俺だけ一人損じゃんかよ」

「いいじゃん。急行だし。しばらく停まんないだろ」

「そういう問題じゃねえよ」

車掌の顔のまま恋人と話すのって、お前が思ってるよりずっとずっと難しいんだからな!

「また仕事になっちゃったな」

言うなよ、今それを。いろんな意味で泣きたくなる。

「俺、前しか見てられないからさ、その分志水がいっぱい見といてよ。花火」

当たり前だが、運転士には前方注視義務がある。
河合が見てもいいのは信号機と標識、それに進路が安全であるかどうかだけだ。

「……しょうがないな。今、赤くてデッカいのが上がった。
緑の枠のが被るように広がって、あ、今の音がネオンブルーの土星みたいな形のやつ――」

心を躍らせる光の花が夜空にドンと広がる度、俺はその色や形、流れていく様を細かに実況していく。
前を見ることしか許されない恋人のために。

「で、次の音のが枝垂れ柳。今、キラキラの蛍光ピンクの星みたいのが降ってる」

「本当だ。パラパラって聞こえる。それって流れ星みたいな感じ?」

「えっと、魔女っ子の変身シーンみたいな感じ」

「わかんないよ、志水の例え」

「うるさいわ!」

笑いを堪えた低めの声が返ってくる。

「最近の花火って、色とか形とか進化してて本当に綺麗だな」

「って、河合。わかんのか?」

「うん。志水の説明でよく見える」

だからお前はニュータ○プかよ!

「志水と花火見れて、今夜は俺、本当にラッキーだな」

嘘だ。
本当は自分の目で見たいに決まってる。

「全然見てねえじゃん、お前……」

「んー、でも音は志水と一緒に聞けた。それだけで十分だ」

もしも二人一緒に休みだったらさ、浴衣なんか着て、
祭の人混みで「暑い」とか「座る場所ない」とか文句なんか言いながらかき氷食ってさ、
ドーンと音が鳴るのと同時に真上を見上げるのに。

掴めそうなほど近くに広がっては消える無数の光の粒に
二人で手を伸ばしてみるのに。


打ち上げが中休みに入ったのだろうか。
急に静けさを取り戻した空には、花火の残した煙が風に運ばれることなく、
水饅頭みたいに丸く残るばかりだ。

「じゃ、俺そろそろ一仕事するわ」

「だからもともと仕事中だ。何度も言わせるな。切るぞ」

河合に有無を言わせず、俺はぶっきらぼうに受話器を置いた。

制限速度の解除区間に入ったんだろう。
薄闇の中、ほのかに照らし出された運転台の計器に目をやる。
スピード計の針は静かに右に傾いていく。

ああ見えても河合は定時運行の鬼だ。
出発で俺が出した30秒の遅れを今、黙って取り戻してくれている。

計器類に灯るLEDランプの赤と緑が、打ち上げ花火の色と重なった。

――今夜、仕事が終わったら河合と二人で花火やろうかな。

コンビニに売ってる小さいのでいい。
河合に花火を見せてやるんだ。

どっちが線香花火を長持ちさせられるか競争して、
最後は火玉の取り合いなんかしたら楽しいだろうな。

紅色の薄紙で巻かれたの軸の先からは緑の炎、
すぐに噴き出してくる白い炎と、都会の夕日のみたいに真っ赤な火玉、
スパークするオレンジ色の松葉――。

手にしたささやかな光は、どんな名花火師が打ち上げる豪華なスターマインより、
きっと何十倍も何百倍も鮮やかな色と輝きで、
河合の笑顔を照らしてくれるだろう。




――その後二人は、近所の公園で花火をしようとしていたところで、
宿泊所の仲間に乱入されてしまった上に、調子に乗った先輩車掌のおかげで
警ら中のお巡りさんに職務質問をされるという、最悪の展開を迎えるのであった。


「だ――――ッ! ちょっと!! 線香花火に全部いっぺんに火ぃつけるの、やめてくださいよ!!」

 田舎の夏休みへ→
 
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くどいようですがフィクションです! こんな危険な電車はございません。

7月中にUPしたかったのですが、間に合いませんでした

各地で花火大会のピークを迎えてますね。
もう何年も見に行ってないので、見てみました。ネットの映像で…。
最近の花火って色も形も格段に増えて、本当に進化してるんですね。
来年はぜひ本物を見たいです。
(今年じゃないのか?)






以下、コメントへのお礼です







留置線デートシリーズをお気に召していただき、本当にありがとうございます!

この作品はエ○がないためか、読者さんの反応は薄いです(´∀`)
働く男の恋愛事情をこっそり垣間見る……というスタンスで書いていますが、
それをお伝えしきれない力の無さをお許しください。
自分の中ではこの二人が最もエ○いです(*^-^*)ゞ
「あー、この後コイツら、ヤってんな…」的な意味で。

毎月彼らにはどこで何をしてもらおうか、楽しく悩んでいます。
こ、今月もどうしよう

更新はまったりですが、また覗きにいらしてください!
お待ちしています。



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留置線デートシリーズをお気に召していただき、本当にありがとうございます!

この作品はエ○がないためか、読者さんの反応は薄いです(´∀`)
働く男の恋愛事情をこっそり垣間見る……というスタンスで書いていますが、
それをお伝えしきれない力の無さをお許しください。
自分の中ではこの二人が最もエ○いです(*^-^*)ゞ
「あー、この後コイツら、ヤってんな…」的な意味で。

毎月彼らにはどこで何をしてもらおうか、楽しく悩んでいます。
こ、今月もどうしよう

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【2014/08/02 04:09】 |  シリーズ短編
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