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天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!



       


*今回は河合と志水の出会い編です。



「うー、寒…」

ポリエステル65%の制服シャツにアイロンを滑らせる度、
白い湯気がジュッと音を立て昇っていく。

ただでさえ梅雨時で湿っぽいのに、休憩室の畳がますます湿気ていきそうだ。

「お、志水。いい嫁さんになれそうだな」

「しっかり花嫁修行しろよ」

お優しい先輩乗務員どもが、上半身裸でアイロンをかける俺に
冷やかしの言葉を浴びせながら去っていく。

(はいはい。どーせ俺はシャツの替えを持ってこないようなド素人の見習い生ですよ)

しかし、車掌がこんなにびしょ濡れになる仕事だとは思いもしなかった。

車掌見習い生は研修中、駅に停車する都度ホームまで出て安全を確認する決まりだから、
今日みたいな土砂降りの日はガッツリ濡れる。

何でホームの端まで屋根つけてくれないんだよ。貧乏会社め!

つけっぱなしのテレビからは、豪雨に対して更に注意を呼びかけるニュースが流れていた。

「ったく、これ以上ダダ降りなんて勘弁してくれよ。
梅雨ってシトシト降り続くから梅雨なんじゃねえのかよ」

「湿った空気が大量になだれ込んで前線が活発になってるらしい」

「へ?」

上半身に鳥肌を立てながらぼやいた独り言に、思いがけず答えが返ってきた。

「って、さっきニュースの人がテレビの中でそう言ってた」

テレビを指さすと、長身の彼は人懐っこい笑顔で俺の横に座った。

(こいつ、確か……)

見習い同期生の河合だ。

たっぱがある割には威圧感なくて笑顔が爽やかなんだけど、
研修所のシミュレーターでゲーム並の鮮やかな手際を見せ、まわりをドン引かせた男だ。

危険な行動を取りまくる映像のデモ客の動きすべてを、河合は驚異の反射能力で見切り、
一度も再開扉することなく発車合図を出した。

『バカ! もしお客様に怪我させたらどうするんだ。河合』

薄くなりかけたデコを真っ赤にさせて激怒する教務係に、
河合が悪びれもせず答えたのは今も記憶に新しい。

『俺にはお客の動きが見えました』

ってお前、ニュー○イプじゃねえんだから。

「シャツの替え、持って来なかったのか? 志水」

「こんなに濡れるなんて知らなかったんだ。うー、寒い」

俺の指導車掌は口うるさくない代わりに、結構意地悪だ。

「危険を伴わない失敗は、どんどん経験させる主義なんだと」

だから雨の日はシャツの替えを持ってきた方がいい、
なんて優しい事、教えてくれる訳がない。
休憩室のアイロンはこういう時のためにある、とだけは教えてくれたけど。

さっきもしれっとした口調で
『経験に勝る教師はいないからねえ』と底意地の悪さを垣間見せた。

「うちと逆だな。徹底的なトップダウンスタイルだから、
従わなかったり忘れたりしたら死ぬほど怒られる」

「それも怖いな」

世の中、丁度いい他人様なんているわけないけどさ、
もうちょっと普通の奴がいてもいいんじゃないか? うちの会社。

(やっぱ余所よりちょっと給料安いせいかな)

「こんな日に限って手袋の替えまで持ってないし、やんなってくる」

「それイカ焼きみたいだな」

アイロンでぺったんこに伸された手袋を見て河合が笑った。
ホカホカで、のっぺり、くったりしてて――。

「プッ、確かに」

河合って案外おもしろいキャラだったんだな。
研修所では無口だったし、ここ来てからは班も別々だったから、
こんなに話しやすい奴だなんて知らなかった。

凹みきってた心に少しだけ元気が戻ってきた。
これなら折り返しの乗務もいい調子で頑張れそうだ。

「志水っていい体してるな」

「え?」

唐突な言葉に俺はアイロン掛けの手を止め、驚きの目で河合を見上げた。

「あ、いや、手足のバランスがいいっていうのか、
筋肉の付き方がしなやかっていうのか…。肌も綺麗だし」

ふうん、そうかなあ。そんなこと言われたの初めてだ。
河合の方が背も高いし肩幅あるし、俺よりよっぽどいい体つきしてるのに。

その言葉を確かめるように両腕を前へと伸ばしてみる。

「よくわかんねえけど中学高校とずっとバスケやってたからかな?
背はあんま高くならなかったけど」

うっわ、冷えて鳥肌立ちまくり。
もしかして高校ん時より筋肉落ちたんじゃないか? 俺。

「お疲れー、って志水。裸でアイロンならエプロン姿が新妻の基本だろううが」

休憩室に入ってきた先輩がお約束通りの挨拶で冷やかしていく。

「『お帰りなさぁい♪』ってか。ヒャハハ」

ったく、さっきから何人目だ?

(はいはい。どーせ俺はド素人で、なーんもわかっちゃいない見習い――)

「志水。これ着てけ」

ふわりと肩に掛けられた白いシャツに、俺はもう一度目を丸くした。

「え? でも、これお前の――」

「いいから着てけ」

河合は急に俺から目をそらすと、なぜか気まずそうに睫毛をふせた。

「もうすぐ点呼だろ。志水のお師匠さん、休憩室出てった」

「うわ、ヤベ」

弟子は当然、指導担当よりも先にスタンバイできていなければならない。
徹底的な縦社会だから、見習いが遅れて現れるなんてもってのほかだ。
ましてあの性格だ。どんな嫌味を言われるかわかったもんじゃない!

あわててシャツを羽織ると、俺は河合に携帯を手渡した。

「シャツ、洗って返すからアドレス教えてくれ。連絡する。俺たち班違うし」

24時間交代勤務で移動を伴う仕事だ。
研修乗務の班も違うから次はいつ会えるのかわからない。

それに河合とは駅員時代の話や家族の事、
好きな音楽とか彼女はいるのかとか
今度はもっともっと、時間をかけてゆっくり話しがしてみたい。

「ん。送っといた」

へえ、綺麗な歯並びしてるんだな。
こいつの笑った顔、俺好きかも。

「ありがと。お礼に今度飯でも奢るわ」

「じゃあイカ焼きがいい。それ見たら食いたくなっちゃった」

俺が手にしたぺったんこの手袋を見て、河合は人懐っこい顔で笑った。

(祭の夜へ→)

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今回の彼らは季節柄からか少しおとなしめになりました。
河合を書くといつもそこはかとなくエ○くなってしまいます。
ってそう思うのは私だけでしょうか??
大阪のイカ焼き、美味しいですよね。関西風クレープみたいで


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【2014/06/03 04:15】 |  シリーズ短編
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