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真っ青な鯉のぼりのケーキは想像してたよりもずっと美味かった。

真っ赤な木苺のソースが中からドロっと垂れてきて、
恨めしそうな鯉のぼりと目が合った時にはちょっと引いたが、
でもまあ美味かった。

「さて、ケーキも食ったし。帰るか」

「は???」

何で帰るんだよ。
夜景はこれからが綺麗なんじゃないか。

「もしかして河合、ここをデイユースで予約したとか?」

「そうだけど、いけなかったか?」

「お前っ……」

俺たち、指輪まで交換したんだぞ。

きれいにメイキングされたベッドにだって
まだ一度も寝転がってないのに、
それをお前、こんな美味しいシチュエーションを目の前にして、
なぜ、どうして……。

――何でヤんないんだよ!!!

「何してるんだ? ほら行くぞ」

「……」

恨みがましい目で睨み付ける俺の肩を、河合はせっつくように叩いた。

「触んな!」

「どうしたんだ? 志水」

「どうしたもこうしたもあるか!」

「グズグズしてるとチェックインが遅くなる」

「それを言うならチェックアウトだろうが! このバ河合!!」

英語以前の問題だ。
もうイヤだ。もう愛想が尽きた。
なんでこんなトンチンカンと秘密の恋人なんてやってんの? 俺。

今すぐこの指輪をこいつに突っ返してやる。

まだ間に合う。
実家に帰ってあの鯉のぼりを盛大にあげて、人生リセットだ。

次は絶対、絶対ノーマルに生きてやるんだからな!

左薬指の指輪に手をかけた時だった――。

「今夜の部屋は別の場所に取ってある」

「へ!?」

「さっき志水も言っただろ?
ここはうちの会社の系列ホテルだから、何かあったら職場にクレーム直結だ」

「う……」

確かにスタッフにアノの時の声でも聞かれたら、人生一貫の終わりだ。

「もうすぐ夜景が見え始める時間だな」

優しく目を細めると、河合は今夜の滞在先として、
元国営鉄道会社が経営する五つ星クラスのホテルの名前を告げた。

「たぶんここより綺麗に見えるはずだ。上層階を予約しておいたから」

「河合…」

「時間がもったいないし、早く行こう。飯もそこで食えばいい」

すっくと立ち上がった河合が、まだ指輪の感触に慣れていない俺の左手を
そっと取る。

「あ、あのさ…河合…」

「ん?」

「端から見れば俺たちって、その…、
二人とも既婚者で親友同士みたいに、見えんのかな……?」

二人の間にはどうしても法律や職場の目、世間体など
いろいろややこしい問題が立ちはだかる。

端がそう見てくれた方が安心というか、やっぱり悲しいというか、
すいぶん自分勝手で複雑な気持ちだ。

「一番大事なのは、志水がどんな気持ちでこの指輪を受け取ってくれたかだ。
俺はそう思う」


――あなたを愛します。生涯を懸けてあなた一人を。


まだ見えはしないはずの夜景が、河合の背後にどんどん広がっていく。

世界中のどんな美しいイルミネーションにも負けないくらい、
河合の笑顔が輝いて見えた。


    


「ちょっと! ちょっとだけ待て」

通路を一歩踏み出したところで、俺は河合を呼び止めた。

「何だよ志水。早く行こうよ。俺、腹減って死にそうだ」

扉をもう一度開いて、部屋の戸口にカードキーを差し込む。

「忘れ物ヨシ! 異常無し!」

指さし確認をする俺に、河合が呆れ声をあげた。

「もしかして志水、家でもそれやってるのか?」

「悪いか? 火事でも出したら社会的信用をなくすからな。消灯ヨシ!」

「志水は生真面目だな」

扉を閉めて、オートロックのドアノブの反動を確認する。
どちらからともなく「せーの!」と声が合わさった。

「「施錠ヨシ!!」」




どんなに進んだ安全装置も非常ブレーキも、愛の暴走だけは止められはしない。
二人がそれに気づくのはまだ先のことだった――。

愛のおK阪劇場   
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【2014/05/03 04:09】 |  シリーズ短編
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