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天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!




「おい、河合。今日こそややこしいことはゴメンだからな」

ホテルのエレベーターの中、
俺は秘密の恋人で、うちの会社の優秀な運転士でもある河合に
尖った口調で釘を刺した。

階高を示すオレンジ色の数字と矢印が、順調に上昇していく。

「わかってるよ。疑り深い奴だなあ、志水は」

「いつもお前が面倒おこすからだろうが!」

騙されて連れてかれたデザートビュッフェでのニセ披露宴の恨みを、
俺はまだ忘れちゃいないからな。バ河合!
 『愛のチョコレートファウンテン』を参照

天使の竪琴よろしく、のん気な到着音がポロロ~ン♪と鳴る。

「何してんだ? ドア閉まっちゃうぞ」

エレベーターからなかなか出ようとしない俺の手を、河合が引っ張った。

「仕掛けとか何もないよな?
この先にいきなり牧師とか立ってたりなんかしないよな?」

バージンロードよろしく、赤いカーペットが真っ直ぐに続く廊下を、
俺は恐る恐るチェックする。

「絨毯が赤いのはここの仕様だよ」

バレンタインデーのこともある。

胡散臭い外国人牧師が待ち受けてて
『デハ誓イノきすヲ――』
なんて茶番がおっ始まったら、もう目も当てられない。

「ここはうちの会社の系列ホテルだ。事件起こしたら職場にクレーム直結だぞ。
わかってんだろうな」

「心配性だな、志水は。ほら、部屋ん中で少しリラックスしろよ」

カードキーを差し込み、志水が部屋の扉を開けた。

取り立てて特徴のないツインの部屋で、ホッとしたような、残念なような。

でも広々と取られた窓から見える夜景はきっと綺麗だろうな。
もうすぐ日が暮れるし、ちょっと楽しみになってきたぞ。

俺も河合も365日、24時間体制で働くたち鉄道マンだから、
今日揃って休みが取れたのも、河合がシフトを調整してくれたおかげだ。

(もう少し頻繁にデートしたいけど、
まあ仕事あってのプライベートだしな……)

眼下に広がる街並みの所々に、目刺しのように小さな鯉のぼりが泳いでる。

そういやうちにもあったな、鯉のぼり。
いつも張り切って立ててくれた爺ちゃんが死んじゃってからは
全然出さなくなったけど、あれってまだ実家にあるのかな。

チビの弟と一緒に近所の銭湯の菖蒲湯で泳いで、
まだ元気だった頃の爺ちゃんに怒られたっけ。

あの風呂屋も賃貸マンションに変わっちまって、
いつも湯船から見てた富士山のタイル絵が重機にバリバリ壊されてくのを、
爺ちゃんと弟と三人で寂しく眺めたな。

もしかすると男って、鯉のぼりを立てなくなるくらいの年頃から、
子供らしい自由とか冒険心とかを忘れてくのかな。

あの鯉のぼりをもっともっと、
爺ちゃんがいなくなっても毎年立ててやったてたら、
今の俺は違う生き方をしてたんだろうか。

春の霞がかかったジオラマみたいな街の空の下、
よその家の鯉のぼりたちは、季節を彩るように力強く泳いでいた。

「――志水。志水ってば。ほら、ぼんやりしてないでこれ見て」

「え?」

「ジャ――ン!」

「だ――――ッ!! 何だ、ソレっ!???」

銀色のトレイの上にロールケーキが乗っている。
ものすごくリアルに再現された、鯉のぼりのケーキが!

「か、河合、何でッ!?」

何でいきなりケーキなんだ?
しかも真っ青の生クリームなんて食って腹痛くなんないのか?

「バレンタインデーにチョコ食って、ホワイトデーに甘いもんを一緒に食うのが、
日本の恋人の伝統的な習わしなんだろ?」

知らねえよ。そんな一昔前の寒村の祝言みたいな風習。

「つか、ホワイトデーなんてとっくの昔に過ぎちまっただろうが!
何言ってんだよバカ」

こいつは本当に期待を裏切らないバカだ。
毎度で悪いが、今日も俺は心の底からそれを実感した。

「本当はホワイトデーに一緒に食いたかったんだけど、
志水は泊まり勤務だったし、俺は夜勤明けでヘロヘロだったし」

そうだよな。
行事がある日に限って、いっつもこうなんだよな、俺たち。

「でも、ここのホテルのケーキ係がさ」

あー、パティシエのことね。

「こういうシーズン物作るのが得意だって噂聞いて注文した。
GWだから鯉のぼりになっちゃったけど」

「注文? わざわざ?」

「うん」

「俺のために?」

「うん。人が見てると志水が嫌がるから部屋付きにした」

「ありがと…河合」

ダメだ。嬉しすぎてまともに河合の顔が見れない。
恥ずかしくて声が裏返ったの、バレたかな?

「志水のそういう顔、久しぶりに見た」

河合は満足そうに微笑むと、銀製のナイフを手にした。

「せっかくだし、この前の続きやろうよ」

「…うん」

柄にもなく、しおらく返事をしてみる。
今日は二人きりなんだし、ちょっとだけなら付き合っても
いいよな?

ナイフを持った河合の手に自分の手を添えてみる。
ケーキにナイフが沈み込んでいくのが嬉しいような、もったいないような――。

「何か、当たったぞ……」

先端にカチリと感じた異物感に、俺は眉をひそめて切り口を確かめる。

「だ――――! 何だよ、コレ!?」

スポンジと一緒に巻き込まれた小さな銀色の環に、俺は驚愕した。

「な、何で指輪がケーキの中に入ってるんだよっ!!」

「ああ、もうバレちゃったか。それ、バレンタインの時に渡し損ねたからさ」

ニコニコと答える河合に、俺はもう一度盛大に顎を落とした。

「もっと普通に贈れないのか、お前は!」

添えてあったペーパーナプキンで指輪についたクリームをきれいに拭う。
これ、マリッジリングじゃないか。しかもプラチナの。
こんな高価なもんに何てことすんだよ。まったく――。

「指輪の裏、なんか書いてある。K…toS。……河合から志水へ?」

「バカだな。和彦から颯太へだよ」

「わ、わかってるよ! んなこと」

ああ、よもや河合にバカと言われる日が来ようとは。トホホ。

「お前のもあるんだろ? もしかしてそれもケーキん中か?!」

「ここにある」

河合が上着のポケットからヨレヨレになった紙の包みを取り出す。
中からは赤いビロード張りの極普通の指輪ケースが出てきた。

「こんなややこしいことしなくても、これに入れて渡せば済む話じゃないか」

「普通に贈っても、志水は恥ずかしがって素直に受け取ってくれないだろ?」

「ぅっ…」

――そうか。あの日からいつ渡そうか、ずっと持ってたんだ、こいつ。
だから包み紙がこんなにくしゃくしゃになって……。

花見の時も俺が昼間の失敗引きずって落ち込んでたから、
きっと渡しそこねたんだ。
 『桜接合ダイヤ』を参照

「手を出して。志水」

「え…」

優しい声にそう言われて、どっちの手を出すべきなのか戸惑ってると、
河合は大きな手で俺の左手をしっかりと取った。

清楚な銀色の指輪が薬指をするりと滑っていく。

「ぁ……」


――あなたの愛を私に半分だけください。
あなたに私の愛のすべてを差し上げます。
だから、どうかお願いです。あなたの愛を半分ください。


指輪が収まった自分の左手を四回瞬きして見た後で、
ようやく喜びがこみ上げてきた。

ヤバい。気管支の奥が熱い。
唇、震えてるじゃないか。俺。

「か、貸せよ。それ……」

こんな事で泣きそうになってるのを知られたくなくて
俺はひったくるようにして指輪ケースを奪った。

一回り大きいリングの裏にはちゃんと『StoK』と刻んである。

『颯太から和彦へ』

たった4文字のアルファベットに込められたたくさんの意味を思うと、
指輪を取った指先が小刻みに震える。


――私の愛はすべてあなたのものです。
だから、どうかあなたの人生を半分だけ、私にくだ……。


河合はいい奴だ。
普段はこんなだけど、仕事のデキる、優しい男だ。
本気出したらどんな幸せだって手に入れられるはずなのに、
いいのかな。俺で…。

ためらう俺が手にした銀色の環に、河合は自分から左の薬指をそっと収めてくれた。

「……」

胸が、喉が熱くて苦しい。
こんな時、何を言えばいいんだろう。
気持ちは溢れ出そうなのに、それを表す言葉が見つからない。
このままじゃ呼吸器がパンパンになって窒息死しちまう。

「あの…河合――」

「黙って」

二人の唇がそっと重なり合う。

それは今までしてきたどんなキスよりも、厳かで
そして甘い口づけだった――。


(と、ここで美しく終わってもいいのですが……) 
<後編へ!>

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【2014/05/03 04:09】 |  シリーズ短編
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