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天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもう十分な二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!


あくまで架空の鉄道会社のお話です。お好きな駅名を当てはめて、春をお楽しみください。


       


カン、カン……

気だるい平日の昼下がり、タムさんことベテラン運転士の田村さんから
緩い電鈴が送られてくる。

――はいはい、どうぞ。いつでも発車してください。

そのリズム感に呼応するみたいに、車掌の俺も合図の電鈴をノロく打ち返す。

カンカン…

列車は次の駅を目指し、またゆっくりと動き出した。

(桜って、どのくらい咲けば満開って呼ばれるんだろ?)

ちょっと夜の勤務が続いてた隙に、沿線の桜は一気に開き始めた。

最近の日本って、爺さんが障子をスパーンと開けるみたいに、
いきなり季節が変わるよな。

つい1ヶ月半前は「全車、記録的ナ大雪ニ注意サレタシ」なんて言ってたくせに、
今は「沿線お花見マップ♪」なんて平然と配ってるんだからな。

(今日は河合、早あがりだったな。あー、今ごろ何してんのかなあ。
会いたいよなあ)

ただでさえ真っ昼間の各停なんて客が少ないのに、
さっきの接合駅でみんな急行に乗り換えちまったからガランガランだ。
こんな時は恋人がどうしてるのか、つい考えちゃうじゃないか。

やがて列車は定刻ぴったりに小さな普通駅に停車した。

周辺に住む人間しか乗り降りしない、このひなびた駅で
特急の通過待ちをしなきゃなんないんだけど、
さすがにこの時間、こんな駅から乗ってくる奴なんているわけ――。

(いた……)

予想に反して、乗り込んできた乗客と目が合った瞬間、
俺は開扉レバーを握ったまま絶叫した。

「かっ、河合ぃ?!?!」

乗務員室の扉を盛大に開け放つ俺に、
紺色のニットジャケットを手にした長身の男が
人懐っこく目を細める。

「やっと来た。遅いよ、志水。待ちくたびれた」

「バカ、定刻通りだ!」

こんな平和なゆるダイヤで遅延なんかする訳ないだろうが!

「つか、何やってんだよ? お前、こんな所で」

「朝通過した時さ、桜がきれいに咲いてるのが見えたから、
志水と花見しようと思って」

「はァ!?」

ここから次の駅までは、軌道を挟むように植えられたソメイヨシノが、
毎年見事な桜のトンネルを作り上げる。
昔、このあたりの名士が私財を投じて、街のためにと植樹したものらしい。

「ここのはいつも他より少し早く咲くから、きっと今日あたりが見頃だ」

「花見ったってお前、俺まだ仕事中――」

カン、カン…

運転席から打たれた電鈴が緩く鳴る。
早く戸閉めしろというタムさんからの催促だ。

「ヤバッ!」

「やっぱタムさんの電鈴はいいな。人生を達観してるって感じがしてさ」

遥か前方の運転席がまるで見えているかのように、
河合が穏やかに微笑んだ。

「俺もこんな音で打てるようになりたいな」

合図の電鈴で人生観が見えるなんて、運転士の五感の鋭さはハンパないな。
いつも「バ河合」なんて怒鳴ったりして、すまん。河合。

無数の花たちがひしめき揺れる淡いピンクのトンネルを、
俺たちの列車はのんびりと進んでいく。

駅で配る沿線ガイドなんかには載ってない、
うちの乗務員だけの秘密の場所だ。

「思った通り朝より綺麗に咲いてるよ。志水と一緒だからそう見えるのかな?」

河合は乗務員室のすぐ前のロングシートを陣取って、
ニコニコと俺を見上げた。

「お客様。みだりに乗務員に話しかけないでください」

俺はわざとツンとした口調で答える。
って、どうせこの車両には俺と河合しか乗ってないんだから、
別にいいんだけどさ。

「ほら、こうすると観光地のトロッコ列車みたいだろ?」

河合は席から立ち上がると、窓ガラスをゴトンと落とした。

ひとひら、ふたひら……
淡いピンク色をした花びらが河合の髪を掠め、車内に舞い込んでくる。

「一度やってみたかったんだ。これ」

「お、おい。河合…」

次々に窓を開けて「ハハ…」と無邪気に笑う河合の周りで、
桜吹雪が舞い散り、ゆっくりゆっくりと踊りだす。

時と場所の概念が揺らぎ、遠のいていく。
緩慢に流れる桜色の景色に、
河合の笑顔が霞み、融けていく――。

『まもなく××です。お出口は右側に変わります』
(お好きな駅名を入れてください)
サボってんじゃねえぞ、志水。( ゚Д゚)ゴルァ !
「!!!」

聞こえてきた車内放送の声で、俺の心は春から一気に氷河期までぶっ飛んだ。

ぼうっとしてアナウンスを入れ忘れた俺の代わりに、
タムさんが運転席から降車アナウンスを入れたのだ。

「ギャー!! どうしよう!? 河合!!」

「落ち着け、志水。とにかく扉開けて」

「なっ、7連ヨシ!」

停止位置線を指さし、今さら新人みたいに仰々しく開扉してみたってもう遅い。

あぁ、始末書もんだよな、これ。トホホ…。

がっくりと落とした視線を上げると、
河合は紺色のニットジャケットを羽織ってホームに立っていた。

「え? ここで降りちまうのかよ?」

せっかく会えたのに終端駅まで一緒じゃないのかよ?

乗務員室の落とし窓から慌てて身を乗り出した俺に、
河合は困った表情で答えた。

「これ以上俺が乗ってたら、タムさんのワンマンカーになっちまう」

「う…。じゃあ、な」

「行くな」なんて死んでも言わないからな。
終点までデートできるなんて甘い事、思ってた訳じゃないぞ。絶対。

寂しいと思う心を悟られたくなくて、
制帽をグイッと深くかぶり直す。

「志水、仕事あがったら電話して」

「?」

低めの声で優しく囁いた後、
河合は制服の襟に乗っていた桜の花びらを一枚、
俺の手のひらにそっと置いた。

「夜桜も見に行こう」

「……」

その後、終端駅に着くまでの37分間に
俺は間違えたことのないアナウンスを
2回噛んだ。




――さらにその後、志水はベテラン運転士の田村から
「停車の45秒とアナウンスは貸しだからな」と釘を刺され、
また清掃係からは「この時期、むやみに窓を開けっ放しにしないでほしい」
と苦情を受けるのであった。


やおい 愛のおK阪劇場  (もう無理です。続きません)

とか言いながら<さらに続編へ→>

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くどいようですがフィクションです! こんな危険な電車はございません。
目次がだんだんゴチャついてきたので、少し整理したいです。
年度末ですね。忙しい方も、いつも通りの方も頑張りましょう


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【2014/03/29 03:47】 |  シリーズ短編
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