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「そろそろ時間だな」

「そうだな」

二人同時に、揃いの構えで腕時計を見る。
いつ、どんな場所でも時間を確認してしまうのが俺たちの悲しい癖だ。

最近は腕時計をしない奴も多いらしいが、俺たちには絶対無理だ。
アナログ時計でバッチリこのポーズと行動を取らないと、
落ち着かないというのか、次の行動に進めないというのか…。

「お待たせしました。デザート号、出発進行ー!」

ミニスカートの車掌コスをした女性が定刻ぴったりに出発合図を出す。
おなじみの発車音が流れた後、精巧なミニ電車はレストランフロアを走り出した。

「親亀と子亀だな」

会社カラーのチョコレート色をした模型が、
これまたチョコケーキを乗せて数メートルの短い軌道を走ってくる。

デザート号は停目(停止位置目標)よろしく「わぁ!」と歓声をあげるギャラリーの
目の前きっかりで停車した。

「しっかし無駄によくできた模型だな。
こんなによくできてるんだから、せめてもっと走らせてやれよ」

俺ならブロッコリーで森、ところてんで川なんか作ってさ、
こいつを大ジオラマの中で思いっ切り力走させてやるのに。
これだから無駄に金と歴史がある会社ってのは……。

「志水。俺にはコイツが何を言いたいのかよくわかる」

バッテリーチャージ満タンで未だ走りたそうにしてる模型を、
河合はまるで公園に常置された蒸気機関車を見つめる爺さんのように、
悲しそうな目で見つめていた。

河合がコイツの運転したら、きっと眉間に深いしわを寄せて
「進っ行!!!」と叫びながら、バッテリーが0になるまで
全駅ノンストップでグルグル爆走させるんだろうな。

悪いけど俺、その列車の車掌だけはやんないからな。河合。

運ばれてきたチョコケーキに群がる女子供とは少し離れた位置で、
それを無造作に頬張りながら俺たちは「デザート号」を賞賛する。

もちろんやっかみが9割だ。
残念ながらうちのもっさい会社にこんなに豪勢な演出ができるはずがない。

「溶接、細かいとこまですんげー丁寧にしてあるな」

「塗装もマジ本ちゃん仕様だわ、コレ」

「お、生意気にも台車にサスペンションがついてやがる」

「もしケーキが潰れたら、親会社の安全性に不安を持たれるからじゃね?」

「ぷっ、会社の沽券に関わるってか」

「あの…」

フロアマネージャーらしい黒服がいきなり声をかけてきた。
他社の冷やかしはお断りとでも言いたいのだろうか?
そういうことなら受けて立つぞ。なあ河合――。

「河合様。ご準備が整いました」

「ああ、すみません。じゃあよろしくお願いします」

なに爽やかに挨拶してるんだよ。
おい、何で見知らぬ男にお心付けなんて渡すんだよ。

フルーツゼリーの側で氷と一緒に浮んでいた蘭の花を一輪手にすると、
河合は俺のジャケットの胸ポケットにそれをそっと挿した。

お高く咲き誇って見えた蘭も、水辺から引き揚げられ、たった一輪になるとやはり心細いのだろうか。
濃い紫色の花びらに乗った滴が、光を儚げに揺らしている。

「行こう、志水」

「って、どこに? おい、河合…」

俺の手を掴んだ河合はホール中央の濁流、じゃなくてチョコレートファウンテンに向かって
真っ直ぐ、力強く歩いていく。

白い手袋をした黒服が河合に向かって一礼し、
悪魔の槍みたいなステンレスの長いフォークをうやうやしく手渡す。

その先端には、バナナ、キウイ、イチゴ、そして星の形をした見たこともない果物が、
きれいに並んで刺さっていた。

「な、何だよコレ!?」

驚きで声が裏返る俺に黒服のマネージャーがにこやかに答える。

「スターフルーツでございます」

違う。それを聞いてるんじゃない!

「私の合図と同時に、このフォークをお二人でチョコに浸してください」

段取り説明はいい。なんで照明が暗転するんだ?
どうして俺たち二人にピンスポットが当たってるんだ?

これじゃまるで結婚披露宴のケーキカット――。

「皆さまどうぞご注目ください♪ お二人の最初の共同作業でございます」

おい、ミニスカ車掌。勝手に司会進行するな。

「かっ、河合。何だ? これ?!」

「志水。正月にお守りを交換した時、俺は心に決めた。生涯を懸けて志水への愛と無事故を誓う」

「ッ! 何…だと?」

「志水?」

「無事故はみんなの願いだ。それを俺への愛なんかと一緒くたにするな!」

世界最高峰の安全レベルを誇る日本の鉄道と、それを担う鉄道マンが、
このチョコレートより甘っちょろい事を言ってどうする。

ドカ雪の朝も台風通過の真っ最中も、定刻通り列車を走らせて、
乗車率200%だろうがガランガランだろうが、変わらぬサービスを提供する。
そういう仕事だろうが。

「断る! 俺はそういう浮ついた奴が一番嫌いだ。帰らせてもらう!」

激情に任せて振り払ったフォークが、チョコレートファウンテンを掠めて飛んでいく。
チョコの飛沫でこのお高そうな絨毯が汚れようが、上品な客がドン引こうが、
そんなこと構うもんか。

「定時運行をなめんな!!」

怒りのあまり呼吸が細かく震える。

「……」

華やいでいたギャラリーたちが水を打ったように静かになった。

たぶん今の俺は河合より怖い顔をしているのだろう。
大毅は今にも泣き出しそうな顔でこちらを凝視している。

「志水ならそう言ってくれると思ってた」

「は?」

「だから志水と組んでの乗務が一番運転しやすい。俺にとって最高のパートナーだ」

穏やかな笑顔でそう言うと、
河合は傍で呆然と立ち尽くしていたミニスカ車掌の制帽を手に取り、
俺の頭に被せた。

「こっちに来て」

「ぅ…」

河合はデザートフォークに苺を刺すと、俺の手にそれを握らせ、自分の大きな手を重ねた。
銀色のフォークを握った二人の手が、チョコレートファウンテンへと厳かに伸びていく。

特大のチョコの噴水に一本の小さなフォークをかざす光景は、
打ち上げ花火を見ながら線香花火を楽しむ、
そんなナンセンスな愛おしさにも似ていた。

流れに手を取られないように、こぼさないように、チョコが苺に綺麗にかかるように――。

「志水、こっち向いて」

瞬きもせず、息を殺してフォークの先端を見守る俺に、河合は優しい声で告げた。

「え?」

「チョコがついてる」

いつものように爽やかな微笑みを浮かべると、
河合は俺の頬に小さなキスをくれた。



――二人の仲睦まじい写真は、デザートビュッフェの広告に
『男性のお客様にも大好評♪』として掲載され、
河合と志水は「他社系列の広告モデルとはけしからん!」と
上司から苦言を呈されるのであった。


やおい 愛のおK阪劇場  (今度こそ続きません)
              とか言いながらさらに続編へ→

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すごい雪でしたね
皆さんがお住まいの街はいかがでしたか?

バレンタイン企画だったはずの話が、肝心の14日にアップできなかったという体たらく。
すみません。しかも結構長くなってしまった…。

河合と志水のお話はエ○シーンが一つもないのに、なぜか一番エロい気がします。
え? そんなの私だけ? 失礼しました。

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【2014/02/15 03:02】 |  シリーズ短編
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