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天然運転士の河合と、お気遣い車掌の志水。
二人は某鉄道会社に勤める同期生、かつ秘密の恋人同士。
説明はこれだけでもうお腹いっぱいな二人ですが、
前のお話がちょっと気になる方はコチラへ!





「おー、あれが噂のチョコレートの滝か。なんかゲリラ豪雨の後の濁流みたいで迫力だな。
特に色がさ」

今日もアホ絶好調だな。バ河合。

「ファウンテンは滝じゃない。噴水だ」

煌びやかなホテルのレストラン中央には、
この近郊で最大級の高さを誇る特大チョコレートファウンテンがそびえ立っている。

「同じようなもんだろ。ほら、滝つぼ見るとみんな後ろ向きでコイン投げ入れるじゃん」

そばにあった小ぶりの焼き菓子を摘まんだ河合の手を、俺は慌てて引きとめる。

「それは泉だ。で、その菓子を投げるなよ。河合」

こんな奴だが、信じられないことに制服を着てマスコンハンドルを握った瞬間から、
河合は泣く子も黙る鬼の運転士に変貌する。

運手席に座る河合は、そりゃあもう渋くて男前だ。
見惚れて戸閉めを忘れそうなくらいイイ男だ。
うっかりそのまま発車合図を出した事があ――
いや、これはいいや。

まあ、そんな河合の素顔を知ってるのは俺だけだと思うと
それはそれで気分いい。

「しかし、もう少しラフな店でもよかったんじゃねえのか?」

河合に「俺のおごりだから」と某私鉄系列のレストランに誘われて、
一応スーツなんか着て繰り出したんだけど、デザートビュッフェかよ。
しかも男二人でバレンタイン・フェアかよ。
甘いもんは好きだからいいけど。

「株主優待券もらったんだ。俺、ここの株持ってるから」

「え? お前、株なんて買ってるのか?」

列車の運転以外に、河合にそんな趣味があったなんて初耳だ。

「同級生に証券会社の奴がいて『得するから』って頼まれたんだ」

「大丈夫なのか? その友達」

「でも安い時に買ったから結構得したよ」

「ふうん…」

どうせ買うなら自社系列のにしろよ。
こんなお上品会社のレストランが、安月給の俺たちに似合うわけないだろ。

グラスデザートが並ぶコーナーに添えられた紫色の蘭の花たちが、
俺たちに「帰れ!」とばかりにゆらゆら高級感を醸し出している。

デザートビュッフェ、ましてや平日の昼下がりなんて、ママ友グループと女子会だらけで、
スーツ姿の男客なんて俺と河合くらいのもんだ。

「何かこう、大の男が平日の真っ昼間から二人でデザートビュッフェなんて落ち着かないな。
ガキでも連れてたら別だけど」

「ハハハ、大毅。一人で遠くに行くなよ」

おい、誰もいない場所に向かって、いきなりなに微笑んでんだよ。河合。

「誰だよ? 大毅って」

「俺と志水の子供」

「ハァ!?」

「今、志水が言ったじゃん。ガキでも連れてたら恥ずかしくないって」

「やめろ! 男同士で余計恥ずかしいわ!」

エア子供なんていらねえよ。

しかし見渡す限り小洒落たデザートばっかりで、食べるのが申し訳なくなってきた。

チョコと生クリームと果物がどこまでも色鮮やかに続く光景は、
どこか名画『モネの庭』を彷彿とさせる。

点描画のように溢れ広がる色彩と甘い香りの中で、
自分が一体どこにいるのかわからなくなりそうだ……。

「えらく甘い最中だな」

銀製のトレイに並ぶ宝石のようなマカロンを無造作に頬張った河合は、
虫歯が痛い時にも似た情けない顔をした。

「サンキュー。バ河合」

「へ?」

お陰さまで現実世界に戻って来れたよ。
食うぞ。元取るぞ!

「あいつの親、どこにいるんだ?」

河合が中央のチョコレートファウンテンを睨んだ。

5歳くらいのガキが、俺たちの目の前でチョコレートファウンテンに
たった一人で挑んでいる。
ぶきっちょな手つきでフォークにバナナを刺し、
案の定、チョコをボトボトこぼしながら、その場で頬張っている。

食いかけのバナナを浸そうと、もう一度チョコレートファウンテンに手を伸ばしたその時だった。

「二度漬けは禁止だ」

ガキの腕を掴んだ河合が、地を這うような低い声で唸った。

怖い、怖いよ、河合。
ここは運転席じゃないし。

「ぁ…」

「二度漬けは禁止だと、この地方の掟を教えてもらわなかったのか? 大毅」

「だから大毅って誰だよ!」

そんな串カツみたいな掟、俺も知らねえよ!

河合の大きな手に鷲掴まれた子供の腕は、ブレーキハンドルくらいの細さに見えた。
ブレーキハンドルより華奢だし、こいつが本気出したらポキリと折れそうだ。

身長180センチ越えの河合にマジもんで睨まれて、ガキはまともに声も出ないらしい。
たかがチョコの二度漬けで、運転中と同じ顔すんなよ。
もうそのへんで許してやれ、河合…。

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【2014/02/15 03:04】 |  シリーズ短編
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