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プライド狂奏曲
 『悪魔のフィナーレ』  試し読み

俊才バイオリニスト×強気バイオリニスト (R18) 




「もういい。時間がないから、さっさと終わらせるぞ。結城」

「笑って悪かった。しっかり手ほどきしてやるから許してくれ」 

眦に滲んだ笑い涙を拭うと、結城は加納の背後に回り込むようにして、階段の一段上に座った。
背中を包む結城の体温が心地よい。

「バイオリンは個にも集団にもなれる楽器だ」

「わかってる」

オーケストラのように集団で一曲を奏でることもあれば、
ピアノのように単独でリサイタルを開くこともできる。
これは他の楽器にはない、バイオリンの持つ大きな特性と言えるだろう。

「いいか、顕彰。弦楽合奏は音と動きで一つに束ねられる集団の美だ。
スタンドプレイは絶対に許されない」

ついさっきまでのふざけた口調とは打って変わり、厳しい声音でぴしゃりと告げられる。
体を包む優しい温もりとは対照的に、忠告はシャープで妥協がない。

「今日は自己主張の強い弓使いは禁止だ。おとなしく俺に従ってもらう」

弓の動きには、弾き手の性格がよく表れる。
穏やかな性格の持ち主は、弓のスピードや返しが流麗だし、
勝ち気な人間は、やはりストロークがせわしなく、一つずつの動きが大きくて攻撃的だ。

「今日だけは自分が加納顕彰だってことを忘れろ。いいな?」

「わかった……」

だが、そう答えたすぐそばから、結城に間違いを指摘されてしまう。

「違う」

厳しい声に、加納の右腕がぴくりと跳ね、止まった。

「ここはアップから。その方が独奏バイオリンの悲しい歌に寄り添えるだろ?」

温かな手のひらが、右ひじを優しく押し上げ、
加納の勝ち気な弓をリードする。
メロディーを口ずさむ彼の甘い歌声に、
加納の意識の輪郭線はゆらゆらと揺らぎ、まるで温められたチョコレートのように蕩けていく。

腰に添えられていた左手は、いつしか加納の体を抱き包むように胸元へと移動していた。

(っ…!)

「こんな風に、ソリストを優しく抱き留めてやる気持ちで弾けば、弓は理にかなった動きになる」

「……」

「そう、もっと情緒的に……。いい調子だ」

暗譜した通り、かろうじてボウイングを繰り返してはいるものの、
何を表現しようとしているのか、もう自分でもよくわからない。
身も心も、徐々に結城の操り人形になっていくみたいだ。

ほのかに色づき始めた加納の耳に、結城はあやすような手つきで黒髪を掛けた。

「もしも自分がソリストだったら、
ここのメロディーはどんな風に受けとめて欲しい? 顕彰」

彼の指はそのまま休むことなく、
加納の髪や耳たぶ、首筋を労るように、ゆっくり優しく撫でていく。

胸に置かれた彼の手が、呼吸に合わせてせわしなく上下する。
次第に騒がしくなっていく鼓動が、結城に伝わってしまうのではないだろうか。

そんな心配をよそに、結城は、肩に頭をもたせかけてきた。
後ろからやんわりと抱きしめられた後、それは首筋への優しいキスに変わっていく。

「やめ、ろ……」

理性が融解しそうだ。

「どうして?」

彼の方に顎をクイッと持ち上げられ、唇同士が柔らかに重なった。

「ん…っ」

結城の体を抱きしめ返したいのに、背後から動きを封じられて、それは叶わない。
胸の前で所在なく両手を握ると、もどかしさと切なさで、全身がぞくりと震えた。

階段の踊り場に、唇を重ね合う音が小さく響く。

(もっと深い、キス……欲しい……)

口づけの本当の甘さを教えてくれた、その本人に、
ねだるようにして濡れた唇を押し当てる。
彼の頬に触れた伊達眼鏡のフレームが、カチャ…と軽い音を立てた。

キスの合間に、熱い吐息が途切れ途切れこぼれる。
その度に掛け慣れない眼鏡が、少しずつずり落ちていく。

「眼鏡、邪魔だ…」

偉そうな言葉で、外して欲しいと甘えてみる。

「どうして? 案外可愛くて、似合ってるのに」

「嫌だ。外せ……」

ゆうべだって不完全燃焼だったのだ。
せめてキスくらい何にも邪魔されずに、思う存分味わいたい。

「ダメだ。本番が終わるまで我慢しろ」

そんな淡い期待を戒めるように、落ちかけた眼鏡のブリッジを
結城の指先によって押し上げられてしまう。

「ぁ……」

駄々をこねるように、加納は小さく首を振った。
だが、加納のささやかな抵抗を封じ込め、
結城は食らいつくような激しいキスを、角度を変えて何度も仕掛けてくる。

「っ…ゅ、ぅ…んっ!……ふ……」

深く優しいキスに少しずつ、確実に追いつめられる。
そんな危険をはらんだ幸福感に、加納は身をぶるりと震わせた。

もういい。我慢なんてするものか。
このまま、この口づけに囚われて、心も時間も、そして体も、
すべて結城に明け渡してしまったって構わない。

そうしたら自由になれる。くだらない意地や、
取るに足らない矜持から解放されるのだ。

結城だけが許してくれる。
バイオリンを手にしていなければ、何の力もなく、
どこにでも存在する愚かな人間でしかないことを。

「んっ……」

体を捩り、両腕を結城へと伸ばした時だった――。





続きはぜひ紙の本で!


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プライド狂奏曲
 『悪魔のフィナーレ』 108頁 イベント頒布価格700円
表紙:倉田 嘘

俊才バイオリニスト×強気バイオリニスト (R18) 

行く先々で問題を起こして回る世界的バイオリニスト 加納顕彰と
泣く子も黙るクールな俊才コンサートマスター 結城明星。
二人は因縁のライバルで、実は遠距離恋愛中???
結城の口車に乗り、一日だけオーケストラ団員を引き受けた加納だったが…。

「結城っ、俺を騙したな!!!」

表紙2
お試し読みはこちら。



既刊『プライド狂奏曲』の続編ですが、どちらもスカッと完結してますので
単体でも楽しめます

できました。やっとこさ出来上がりました。
これでもう完全に燃え尽きたな…と思った1時間後には、
ペーパーでお配りするSSを考えてました。
本当にアホです。

今回も表紙を倉田嘘さんにお願いしました。
何かをやらかしそうな加納の顔が印象的です!

私にしては珍しく、今回は少年も登場します。
加納と少年…面倒な事になりそうで怖いです


中央書店 コミコミスタジオ様に通販をお願いしています。
イベントでお会いできない方はぜひご利用いただけたらと思います。




皆様と新刊でお会いするのを、楽しみにしています!

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