オリジナルBL小説、日記、同人誌のお知らせなど……
また余裕がなくなってきたので、今のうちに鉄を叫んでおこうと思います。

CSR報告書、キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ッ!!!

発注しておいたK阪電鉄の「CSR報告書2012」が家に届きました。
数ある鉄道会社の中、私はK阪電鉄を断トツで愛しています。

昨今、鉄道会社の「安全報告書」は、HP上にpdfであげてあり、
欲しい奴だけ勝手にダウンロードしな、
(冊子があっても一般人には配布していない)
という寂しい形状が多いのですが、
今年度のK阪電鉄は紙媒体もちゃんと作成したもようです。

いいぞ! 大好きだ。
しかも送料無料というあたりがまた心ニクイですね。

ところでこの報告書を私は愛のために入手しましたが、
皆さん普通は何のためにご覧になるのでしょうね?
株主とか就活とか……?
普通の使用目的がイマイチわかりません。

ページをめくる度に働く男たちが満載でうっとりします。
「働く男
私はこのキーワードに大変心を惹かれます。
美しい世界です。素敵な冊子です。

先ほどお書きしたように、安全報告書は各社HP上で
誰でも閲覧することができる形式になっています。
皆さんもぜひ一度、ごひいきの鉄道会社の安全報告書を
ご覧になってみてください。

安全は進化していくもの、そして人間が考え、作り続けるものだ
ということを感じることができます。

愛するK阪電鉄の安全への取り組みを
本当はもっと見たい、もっと知りたいのですが、
残念ながら「続きはまた次のCSR報告書で
ということらしいです。アアン、待ちきれないyo

コノ続キハ次号、来年ヲ待テ!

CSR


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【2012/09/30 00:40】 |  日記(鉄道)
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弓で練り巻くようにして叩きつけられるフレーズに翻ろうされて、
焦燥を次第に抑えられなくなっていく。

(ダメだ、間に合わない!)

ペダルの踏み込みが難しい部分が、僅かにずれた。
濁ったハープの和声と、噛みつくようなバイオリンのメロディーとが
激しくぶつかり合い、不協和音の火花を散らす。

(この曲を、こんな……っ)

ペダル操作をしくじった和波は、
悔しさに奥歯を噛みしめた。

自分の音楽性を出せない緊張と絶望感とで、
指先が急激に冷えていく。
強ばった足が思うようにペダルに乗らない。
噎せ返るようなバイオリンの音色に、呼吸までが苦しくなっていく。

――そうだ、これが宣貴のバイオリンだ!

聴く者全ての心を
いとも簡単に己の音の世界へと引きずり込んでしまう、
その強大な表現力と破壊力。
どんな相手をも屈服させてしまう天才バイオリニスト。

それが柘植宣貴だ。俺の歌を聴け!

勝ち誇ったようなメロディーが滔々と流れていく。
体はがんじがらめになり、腕が前に伸びない。

(どうしたらいい? どうしたら!!)

ステージの上に逃げ場はない。
奏者にとって、音はその場限りの厳格な生き物だ。
会場の空気と緊張感、心と体のコンディション、
そして自分の才能――。
全てをコントロールできなかった時は、敗北を意味する。
指先から生まれ出た音を取り戻し、
修復する方法はどこにもないのだ。

(やめて、宣貴!)

――ムダな事だ。俺に従えばいい。

客席をにらみ付ける柘植の横顔が、そう答えたように見えた。

冷や汗をかいた指先が弦の表面だけを滑り、
必死になればなるほど弦をつかめなくなっていく。
このままでは柘植の音の牙に食らいつかれて、
演奏が崩壊していくのを待つばかりだ。

(無理だ、これ以上……ッ!)

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     <30→>
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【2012/09/29 01:14】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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柘植は榛原に対し、本番中のステージから戦いを挑んだ。
しかし、榛原はそれに動じることなく、
叩きつけられた挑戦を静かに受け止めている。

そのあまりの異様な光景に会場が静まりかえる中、
口の端をニヤリと持ち上げた柘植は、大げさな動きで弓を構え、
そして突然攻撃的な演奏を開始した。

(何?)

切りかかるような激しい弓使いと、奔放で感情むき出しの音楽性に、
客席があっと言う間に飲まれていく。
柘植の演奏が尋常でないことは榛原もきっと気づいているはずだ。

(どうして? 宣貴)

こうなってしまっては柘植のリードに従うしかない。
鋭い目つきで榛原を見下ろしたまま、
柘植の長い指がバイオリンの指板を叩きつける。

――和波は俺の物だ。今この瞬間もこうして俺に寄り添い、
必死でついてくるじゃないか!

そう誇示するように、彼の弓が自由自在にうねった。

『宣貴、やめて!』

『ふん、外野は客席で大人しく見ていればいい』

ささやき声とはいえ、本番のステージ上で
演奏しながら会話を交わすなど常識ではありえない。
自分本位で、熱くなると己を抑えられなくなる柘植の勝ち気な性格は、
恋愛だけでなく、音楽においてもその片鱗をみせる。

――追従しろ。俺のものになれ!

バイオリンを通し、柘植が無言で攻め立ててくる。

『こんなの、お客さんのための音楽じゃない!』

『いいじゃないか、一曲くらい遊んだって』

柘植はリズムの間合いを巧妙に詰めてテンポを上げてきた。
演奏の主導権は、今まさに彼の手中にある。

これではハープ最大の弱点であるペダル操作が追いつかない。
煽り立てられ、守戦に回らざるを得ない和波の演奏に
焦りの色が見え始めた。

(このままだと中間部のペダルが……)おKはん、続く…

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【2012/09/27 02:20】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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和波の心配をよそに
柘植は前半ステージを余裕の表情で弾きとおした。

しかし、彼があの目つきをしている限り安心はできない。
後半には大曲ばかりが控えている。

――この休憩中に、どういうつもりなのか問いただしておかないと。

「榛原さんをあの席に座らせたのは宣貴だね」

「彼には世話になったんだ。特別席にご招待したっていいだろう?」

楽屋の机に足を組んで座った柘植は、バイオリンを爪弾き、
ゆるい和音を鳴らした。

今朝、榛原が演奏に集中しろと言ったのは、単なる励ましではなく
この事を意味していたに違いない。

「だからってあなたは!」

「そんなに怒るなよ。きれいな顔が台なしだ」

和波は柳眉を逆立てて柘植をにらみ付けた。

「どうせお前からもチケットを渡してあったんだろう?
あいつは自分の意志で俺が招待した席に座ってるんだ。
文句を言われる筋合いはない」

「宣貴!」

「ふんっ。前半はお遊びみたいなチャラい曲ばかりだったからな。
本気を出すのはここからだ!」

柘植が勢いよく立ち上がった。

言葉どおり、ここからの柘植は
若いエネルギー満ち溢れる入神の演奏で
聴衆の心をグイグイと惹きこんでいった。
今夜ここに集まった人々は、
彼のこの音を聴くためにチケットを買ったと言ってもいい。

(今は自分であることは忘れよう。
紡ぎ出される音楽だけに集中しよう)

どれだけ心が揺れても、
もう二度と迷いのある演奏はだけはしたくない。
このハープで自分の音を作り上げると榛原に約束した。
憧れだったグレース・デュトワを超えると心に誓ったのだ。

――自分の音楽を聴いてほしい。
コンクールのように誰かと競うものではなく、また誰かの模倣でもない。
心から生まれてくる素直な音を
このハープを通してみんなに届けたい。

なんとか無事にプログラムの終曲、
サン=サーンスの『幻想曲』を迎えようとした時、
柘植は突然ステージの際まで歩み出た。

そして、手にしていた弓の切っ先を客席に突きつけ、
挑戦的な目で会場を見下ろした。

人々の奇異の視線は、
その弓が指し示す先に座る榛原へと集まっていく。ザワ… ザワ…

(宣貴っ!)

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【2012/09/25 01:29】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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チケットは前売りの段階でほぼ完売し、会場は満席状態だった。

もちろん事務所や関連企業の尽力もあるが、
海外で人気の高い柘植宣貴の日本公演に
クラシックファンがどれだけ大きな期待を寄せているか、
このことからもうかがい知ることができる。

完璧なマネージメントに満席の会場、光り輝くステージ。
あの頃夢に描いたものが今、全てここにある――。

黒い燕尾服に身を包み、
柘植は堂々たる風格で開演時刻を待っていた。

同じものを夢見たはずの二人を別離へと導いた理由が
本当は何だったのか、今となってはもうわからない。

ただはっきりとわかる事は、今夜この舞台で
再び柘植と音楽を作り上げるという事実だけだ。

「お願いします」

ステージマネージャーの合図と同時に
舞台袖の扉が床に光の扇を描きながら開いていく。

(このコンサートを成功させる!)

意を決した和波は柘植と共にステージへと進み、
満場の拍手の中で静かに頭を下げた。

そして、ほの暗い客席へと視線を上げた瞬間、
驚愕のあまりその瞳を大きく見開いた。

――榛原、さん?

後ろの客席で見守っていると言ったはずの榛原が
なぜか最前列の中央席に座っている。
しかも彼を挟むように両隣は一つずつ空席にされたままだ。

今夜のコンサートは全席指定の上、チケットは完売だったはずだ。
この場所にこの状態で席が取れるのは――。

(……宣貴?)

隣に立つ柘植に視線で疑問をぶつけるが、
彼は演奏会に集まってくれた聴衆に向けるものとは思えない
厳しい目で客席をにらみ付けている。

得体の知れない不安が、和波の胸に冷たく流れ込んできた。
ゴゴゴゴゴ……
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【2012/09/23 22:50】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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秋のイベントの準備が整いつつあります。

新刊の表紙は今回も倉田嘘さんにお願いしました。
今回は打ち合わせの時に、こんなシーンを表紙にしてほしいと
だいたいのイメージを伝えました。

倉田さんの第一声。
「ポイントレールやな……」
「はい?」

「近くには転てつ器や」
「……」

「他にはなにがある?」
「入換信号機……」

どうやら人物はどうでもいいようです。

それからしばらくして「今、架線柱を作ってる」という連絡を受けました。
ここで私は大きな誤算をしてしまいました。
まだ架線柱を作ってるのか……などと高をくくってしまったのです。

時は流れ、原稿が思うように仕上がらなくて苦戦中のある日、
表紙が轟音と共にものすごい勢いで追い上げてきました

ひぃぃぃーーーーーーー!!!
リアルで「ウサギとカメ」状態です

でも仕上がった表紙をいただいた時、
素敵すぎてマジ泣きしそうになりました。

シャツの仄かな乱れと緩んだネクタイが、またなんとも色っぽいです。
心配しなくても人物にもちゃんと愛がありました。

この愛あるポイントレールと架線柱は、裏表紙でお楽しみいただけます。
倉田さん、本当にありがとうございました。
少量ですがおまけとしてポストカードも作りました。
(家内制手工業なので枚数に限りがございます。あらかじめご了承ください)

できるだけ皆さんに楽しんでいただけるよう、
入稿まであともう少しだけ推敲します。
頑張ります!!!!

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【2012/09/19 18:20】 |  日記(その他)
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コンサート当日の朝を迎え、
和波はハープの搬出のために榛原宅を訪れた。

運送業者に指示を出し、楽器を輸送用の頑丈なケースに
収納して送り出す。
本番前のなれた作業とはいえ、いつもこの瞬間は緊張する。
特に今回は、手配した輸送ケースにこの舶来の立派なハープが
計算どおり収まるのか、とても不安だったのだ。

「えらく立派な代物ですね。久しぶりに見ましたよ。
こんなすごいハープ」

「よろしくお願いします。僕もすぐにホールに向かいます」

なんとか搬出トラックのテールランプを見送った時には、
安堵の息がもれた。

「今夜は楽しみにしているよ」

「ありがとうございます」

腕まくりをほどき、脱ぎ捨ててあったジャケットを羽織った和波は
榛原に慌てて頭を下げた。
今日こうして無事に本番を迎えられるのも、
全て彼の力添えがあったからだ。

「お母様の大切なハープをお借りします」

「約束、守ってくれるね? 和波」

「はい。僕の音、僕の演奏で今夜の演奏会を成功させてみせます」

和波は涼やかな瞳で榛原に誓った。

今夜のチケットはもう渡してある。
本当はお礼として一番良い席を用意したかったのだが、
榛原に「身内用の席でいい」と言われ、
結局最後列のドア付近の席を用意する羽目になった。

彼はお客としてではなく、出演者の近しい者として
このコンサートを見届けたいのだと言った。

「和波」

ふいに呼び止められ、細い体が長身の榛原に抱き包まれた。
朝のひんやりとした風が薄黄色の秋バラを揺らしている。

「今夜はどんな事があっても演奏に集中するんだ。
君の音楽はきっとみんなに届く」

「榛原さん……」

「自分の信じた道を行きなさい。
本当に得たいものは迷ったその先にこそ見えるよ、和波」

柘植との再会に揺れる心を感じ取ってもなお、
榛原はこうして背中を押してくれる。
静かで深い彼の優しさに、今の和波はただ
うなづくことしかできなかった。

「はい……」

「行っておいで」

額に一つ、触れるようなキスを落とした榛原は
そっと体をほどいた。

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【2012/09/18 01:05】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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「ふん、尊大な奴だな」

「宣貴に言われたくないよ」

「今日は部屋を二時間しか押さえられなかったから、
さっさとリハを終わらせるぞ」

音楽のこと以外にはあまりこだわりを持たない
柘植のあっさりとした性格に、
当時も何度助けられたことだろう。

次々と順調にプログラムがまとまっていく。

「ここはテンポを前に持っていってくれ。
展開部からもっとせき込むような感じで――」

柘植が譜面に鉛筆で指示を書きこむ。
せっかちで読みにくい文字も、
テンポに大きく緩急をつけて曲をエモーショナルに仕立てたがる癖も、
あの頃とまったく変わらない。

ただ一つ違う点といえば、
今日の柘植は全力で弾いていないということだ。
単なるリハーサルだからなのか、
それとも先日、彼の演奏に引きずられてしまったからなのか――。

「ここでペダルを待った方がいいか?」

「あ、大丈夫」

弓を止め、こちらを振り向いた柘植に、
和波は首を小さく横に振った。

ペダル操作で小回りが利かないのがハープの最大の弱点だ。
それを熟知した彼ならではの気遣いが、
今の和波には嬉しかった。

「和波の演奏はやっぱり他の誰よりも合わせやすい。
こちらからあまり要求しなくても、思うとおりに曲が仕上がっていく」

「何度も一緒に演奏したからね」

「ああ。学生時代、練習室にこもって
よく二人で一日中バカみたいに弾いてたな」

柘植が懐かしげな笑みを浮かべる。

「あんまり夢中になり過ぎて講義の時間を忘れて、
僕たちだけ教授にレポートを提出させられたこともあったね」

「俺は実技のレッスンまですっぽかして、
バイオリンの師匠に思い切り怒られた」
真面目に学べよ、コラ
そんなこともあったと思い出し笑いをする和波の隣で、
窓の外の街路樹を眺めた柘植がぽつりと呟いた。

「もう一度、あの頃に戻れたらいいのにな……」

「……」

二重ガラスの防音窓に手を添え、遠い目で発せられた柘植の言葉に、
和波は返事をすることができなかった。

もしもあの時、柘植からドイツ留学の相談を受けていたら、
自分はどうしただろう。
彼の音楽家としての才能を考えれば、
行かないでほしいなどとわがままを言えるはずがない。

しかし、いつ帰ってくるともわからない柘植を、
あてもなくただ待ち続けることができただろうか。

柘植が一方的に去っていったことを理由にして、
探し出してでも彼の心を確かめることができなかった
自分の弱さから、目をそむけていただけではないのだろうか。

そんな自分自身への疑念がいくつも胸をよぎる。

「和波。ドイツ行きのこと、真剣に考えてほしい」

リハーサルを終えた柘植は
信念に満ちた目でそう告げると、一人スタジオを後にした。
外界から遮断された防音窓の向こうに、
去っていく柘植の背中が見える。

「宣貴……」

釣瓶落としに日が落ちていく都会の夕暮れの中、
その姿は遠くなり、
やがて人混みに消えていった。

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【2012/09/16 01:37】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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翌日、和波は意を決して事務所に二回目のリハーサルを願い出た。
リハーサルは一回でいいと断言した手前、
恥を忍んで頼んだつもりだったのだが、
マネージャーの宮村からの意外な返答が和波を驚かせた。

「実はね、柘植さん側からも再リハの依頼が来てて、
和波にどう頼もうかって迷ってたとこだったんだ」

(宣貴が、気を回してくれたんだ……。僕が不利な立場に立たないように)

事務所に押さえてもらったスタジオで柘植の到着を待つ間、
和波は榛原の言った「今の彼」という言葉に思いを巡らせていた。

自分は今の柘植の何を知っているというのだろう。
むしろ彼の記憶は五年前で止まったままだ。

突然の帰国と変わらぬ情熱、そして突きつけられた愛。
もしも柘植の手を取ったなら、
ドイツで新しい人生が待っているのだろうか……。

重い防音室のドアが開く。
バイオリンのケースを手にした柘植は、
少し緊張した面持ちで和波の前に立った。

「早いな。和波」おはようさん

「宣貴、あの……」

『この前はごめん』

同じ言葉を同時に発した二人は思わず目を丸くする。
ほんの数秒間の空白が流れた後、どちらからともなく笑い声がもれた。

「クッ……何だよ、それ」

「おかしい。なんだか学生時代のケンカの後みたいだ」

「昔のことは忘れたんじゃなかったのか? 和波」

「今、思い出したんだよ」

肩をすくめてみせる和波に、
柘植は「調子いい奴だな」とあきれ笑いを返した。
こうして心をほどいて笑顔を交わしてみれば、
五年という時の流れがまるで嘘みたいだ。

学生の時もよくケンカしては、こんな風に仲直りをした。
ささいな事で言い争いになり、後で少しだけ反省して
でもなかなか素直になれなくて……。

そんな時は決まって学内の練習室にこもり、
一人でバイオリンとのデュエット曲を練習する。
「そろそろ仲直りしよう」という、柘植に向けてのメッセージだ。

柘植はいつも気難しい顔で練習室に乗り込んでくると、
ハープの調べに合わせ、ムスッとしたままバイオリンを奏でた。

しかし、紡ぎ出される素直で優しいバイオリンの音色を聴けば
彼がもう怒ってなんかいないことはすぐにわかる。

それでもわざと機嫌が悪いふりをして弓を引く彼の、
本当は少し困ってる横顔が、いつも可笑しくて……
涙が出るほど可笑しくて、愛しかった――。

言葉すら必要ないほど愛し合っていたはずなのに、
なぜもっと一日一日を大切に過ごさなかったのだろう。

「宣貴、ありがとう。事務所にもう一度リハーサルを頼んでくれて」

「いくら何でもあのまま本番はご免だからな。
お前、今日はあのハープじゃなくていいのか?」

「うん。もう感じはつかんだから問題ない」

あとは当日、ゲネプロでホールの響きを聴いてバランスを取ればいい。
自信はある。

 <←22>
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【2012/09/14 22:55】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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「若い時はね『この人となら今、この瞬間死ねる』って思うような、
激しい恋に落ちるものだよ」

榛原は僅かに懐かしさを湛えた微笑みを浮かべると、
和波の目を真っ直ぐに見つめた。

「でも時をかけて人は変わる。本当に愛し合える相手に出会えた時には、
この人と十年、もっと先まで共に生きていたいと願う、
おだやかな愛へと変わっていく」

「共に、生きる……」

「君がこんな素晴らしい奏者になったのも、
きっと彼と過ごしたかけがえのない日々があったからだろう?」
「それは……」

「感受性が人一倍強い君のことだ。深く傷ついただろうが、
その恋から貴重なものもたくさん得たはずだ。
だから次の恋をすることを恐れてはいけないよ」

自分の心を押さえつけている理由を、
やはり榛原はずっと前から感じ取っていたのだ。

「和波は今も柘植君のことを愛してる?」

「……」

――わからない。
それが正直な答えだった。

五年前、自分を捨てたはずの恋人は、今も愛していると訴えている。
それが嘘ではないことは彼の演奏を聴けばわかる。
それがわかるのは自分しかいないと断言すらできる。

もともと不本意な別れだったのだ。
もう一度やり直せたらという気持ちは、
自分で気づいていないだけで、
心のどこかでずっと燻っていたのかもしれない。

「意地の悪い質問だったかな?」

思考をまとめきれず、沈黙したままの和波に榛原は苦笑してみせた。

「じゃあ聞き方を変えよう。君は今の柘植君が好きかい?」

「今の、宣貴?」

「今の彼の全てを受けとめて愛することができなければ、
君達の関係はすぐに崩壊してしまうよ」

静かに発せられた榛原の言葉は、和波の心の核をまっすぐに貫いた。

「過去をなぞってだけいるのは自己愛の一種だ」

「それは……」

「人はね、生ある限り前を見て歩き続けなければならないものだ。
過去をなぞって愛しているだけでは前へは進めない」

榛原の透徹した瞳には、揺れまどう自分の姿が映っている。

「和波も柘植君も学生の頃とは違って、
今は自分の生き方をしっかりと持った大人だ。もしかすると
二人の心の中には、本当はもう答えが出ているんじゃないのかな」

――答えなんてあるのだろうか? 
あるのだとしたら、誰か教えてほしい。
もしも今、この迷いの森の中で、小さな明かりを灯す一軒の家を見つけたら、
救いを求めて戸惑うことなく扉をたたくだろう。
どの道を選べば正しいのか教えてほしいと希うだろう。

「じっくり考えなさい」

和波の肩を軽く叩いた榛原が、すっくと立ち上がった。
心の中にある答えは、やはり自分自身で見つけ出すしかないのだ。

「送っていこう」おおきに

笑顔で差し伸べられた手はいつものように大きく、
そして温かかった。

 <←21>
     <23→>
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【2012/09/11 22:06】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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柘植が言い放ったとおり、
幼い頃から練習に明け暮れてきた和波にとって、
愛する人と共に過ぎた学生時代は、夢のような日々だった。
生き急ぐように愛し合い、二人で音楽を作り上げていくことさえできれば、
他には何もいらなかった。

「でも宣貴は、卒業を間近に控えた冬、
僕の前から突然姿を消しました」

柘植は誰にも相談することなくドイツへの留学を決め、
卒業を待たずに渡独したのだ。
住所も電話番号も、連絡先全てを絶ったまま――。

「日本とドイツ、たとえどんなに遠く離れていても
心は通じ合えたはずなのに、
なぜ宣貴が僕に一言も告げずに行ってしまったのか、
結局わからず終いでした」

後には置き去りにされたという、虚無感と深い絶望だけが残った。
そしてこれが人を愛することへの恐怖心に変わり、
今も和波の心に暗い影を落としている。 

「宣貴にとってはバイオリンが全てだったんです……。
留学は体のいい理由、きっかけでしかなかったんでしょうね」

自分の野望をかなえるためには手段を選ばない彼なら、
十分に考えられる行動だった。

そんな柘植に一言「同じ夢」と言われただけで、
すべてを拭いさったはずの心に、
あの日と同じ濃度のわだかまりが、
じわじわと滲入してくるのはなぜだろう。

「君たちのように明確な夢を持った者同士は、
なりたい自分というものを強く持っているから、衝突も多くて
つらい恋だっただろうね」

「え……?」

「愛してるから許してきたんだろう? 彼のわがままを全部」

和波は驚きで声を詰まらせた。
夢を鋭角に追い求めることは、ある意味戦うことにも似ている。
それを美しいと簡単に口にできるのは、戦いの現場から離脱した者か、
その苦しさを知らない人間だけだ。
おKはん
同じ世界を追い求めた柘植とは共感できるものが多かったが、
そのぶん諍いが多かったことも事実だ。
気性が激しく、勝気な性格の柘植との恋愛は、
和波が譲ることでそのバランスが保たれていた部分も大きい。

「柘植君は欲しい物を手に入れずにはいられないタイプだからね。
演奏家として同じものを夢見たら、二人の立ち位置は恋人から
ライバルに逆転してしまう」

「あ……」

「よほど信頼し合っていなければ愛が成立しない、
若い人にはかなり難しい恋愛パターンだ」

榛原は見てきたわけでもないのに、柘植との関係を見事に言い当てた。
これが企業のトップに立ち、大勢の人間を束ねる人物の
洞察力というものなのだろうか。
 <←20>
     <22→>
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【2012/09/09 00:57】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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「落ち着いたかい?」

「はい……。こんなことにあなたを巻き込んでしまって、
すみませんでした……」

力なくソファに座った和波は、
すっかり冷えてしまった紅茶のカップを置いた。
ティーカップの琥珀色の水面に、ハープが静かに影を落とす。
やはり自分にはあの楽器を演奏する資格はない。
柘植と再び演奏を共にするなど、元から無理な話だったのだ。

「やはり無理です。こんな気持ちでは本番に向かうなんて。
心がめちゃくちゃで、何をどう表現していいのか……」

「逃げ場がない時こそ、
戦わなければならない相手は自分自身だよ」

隣に座った榛原はそっと和波の手を取り、
おだやかな声で尋ねた。

「話してくれるかな? 柘植君と何があったのか」

もう榛原にこの傷あとを隠しておくことはできない。
隠したところで、賢明な榛原にはもう全てを気づかれているはずだ。
重くうなづいた和波は、記憶を手繰りよせるように
とつとつと語り始めた。

「宣貴は学生時代……僕が愛した人、です」

おKはん
榛原は黙ったままもう一度しっかりと手を握り直してくれた。
この大きな手が自分に過去を乗り越える力をくれる、そんな気がした。

「彼とは学内のコンサートで共演したのがきっかけで、
お互いに惹かれあって……
すぐに愛し合うようになっていきました……」

柘植と出会ったのは大学に入学してすぐのことだ。
長身で精悍な顔立ちと、野心的な目を持つ柘植は、
学内でも異彩を放つ存在だった。

誰とも慣れ合わず、
どんなに高名な教授にも決してなびくことのない彼は、
この時すでに天才演奏家としてのポジションを確立しつつあった。

「自分にはない音楽性や行動力を持った宣貴が、
いつも眩しかった。今思えば、学生だった僕は、
そんな彼の才能に恋をしていたのかもしれません……」

実際、柘植の演奏には、
バイオリンの音一つで人の心を惹きつけてやまない、
そんな強いパワーがある。

彼はその群を抜いた才能で優秀な上級生達を差し置き、
学内での首席の座は当然のこと、
国内の主要な音楽コンクールでも入賞を総なめにしていった。

「でも、それは全部、彼の血のにじむような努力の結果なんです。
いつも一緒にいた僕にはわかる!」

「君は彼を、心から愛していたんだね」

「あ……。ごめん、なさい」

和波は切実に訴えようとした自分に戸惑った。
まだこんな気持ちが心の中に残っているなどとは思ってもいなかったのだ。

「生きること全てが音楽と愛に直結するような、そんな激しい恋でした……」

 <←19>
     <21→>
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【2012/09/07 15:09】 |  天上の調べは愛を紡ぐ
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